モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】平成の経済(小峰隆夫)

書籍情報

【概要】

書評で評価が高かったので読了。日本経済新聞出版社企画の平成3部作の一冊(ほかは「平成の政治(御厨貴、芹川洋一編著)」「平成の経営(伊丹敬之著)」。読売・吉野作造賞受賞作。

著者は、元経企庁職員。物価局長、調査局長を歴任。本著は、バブル崩壊からはじまる平成30年間の経済を、官庁エコノミストの目線で俯瞰的に整理。

 

【ポイント】

以下では、終章中心に教訓と今後について備忘的に抜粋引用(執筆時点が2019年2月であり、コロナ禍以前、安倍政権継続見通しの時期であることに留意)。

  • これからの経済政策:
    • マクロ経済の政策目標と政策手段の関係を見直すべき。マクロ経済変数は経済政策(アベノミクス)だけでコントロールできるものではない。政府がコミットすべきは財政運営と制度整備に限り、マクロ経済指標は長期的に目指すべき目安として弾力的に考えるべき。
    • 政策運営の視点を短期・非常時対応型から長期・構造改革型にシフトすべき。異例の財政金融政策で短期需要を増やす政策から、働き方、社会保障改革などの構造改革に重点を置いていくべき。
    • 政策決定プロセスの改革も必要。政府、日銀への最新の経済学的知見を備えたエコノミストの関与強化、エビデンスベースの政策評価を踏まえた決定など。
  • 執筆を通じ著者が考えた3点:
    • 時として生じる前例のない経済的課題を、社会が認識するにはタイムラグが生じ、これが政策発動の遅れをもたらし、問題を深刻化する(バブル対応における経済浮揚策に対し再発を危惧、不良債権問題対策における銀行への公的資金投入の躊躇、物価下落を歓迎しデフレ対策が遅延等)。
    • 経済学的な考え方をできるだけ適用すべき。部分均衡ではなく、一般均衡で考えること(因果関係の連鎖を広く、深く考える)、政策目標と政策手段の関係は優先度に基づき設定すること(例:規制緩和は長期的な資源配分の最適化手段であり、景気浮揚策ではない)、実験的な政策が求められる中で、サンクコストに固執しないこと。
    • 政策は当然、立案していく分析力と政治的に実行していく力の両輪が必要。
  • 幾つかの断片的な感慨:
    • バブルの中にあってはそれがバブルだとは分からない(当時はそれが経済の実力という議論が支配的だった)。
    • 国際収支(貿易収支)に対する一般の考えは、オーソドックスな経済学が示すものとはかけ離れている(赤字より黒字が望ましい、赤字はGFPの減少分を意味、黒字が多すぎるので内需拡大して減らすべき、はいずれも経済学的には誤り)。
    • バブル後には必ずバランスシート調整問題などの大きな弊害が現れる(そのため未然防止が最重要だが、その成果の評価は難しい)。
    • 日本では経済がうまくいかなくなると、財政出動型の景気対策で対応する傾向が強い(著者の試算では1990年代以降の景気対策の単純合計は400兆円を上回る)。「経済は政策的にコントロールできる」と過度に思い込みすぎではないか。
    • 財政再建構造改革にとって最大の障害は社会保障改革であることが多い(が、経済の専門家は社会保障合理化が必要と考えるのに対し、大部分の国民は社会保障の充実を求める)。
    • 日本は異常に消費税への関心が高く、政権にとって鬼門になることが多い(一方で、社会保険料の引き上げには関心が薄く、気付くとこちらが急上昇している)
    • 改革時に国民的関心は大いに高まるが、ひとたび実現すると関心は薄れ、事後的な評価はほとんど行われない。

 

【雑感】

  • 変動に満ちた過去30年間の経済を通史で俯瞰できる良著。読みながら、都度当時のニュースが思い起こされる。背景説明も丁寧で、なるほどそういうことだったか、たしかにそうでしたね、とまさにありがたくおさらいできる一冊。
  • 長期・構造改革型へのシフト、その中でも働き方改革社会保障改革に焦点、なぜか消費税に過敏な国民、息詰まると財政出動、経済は政策でコントロール可能と考えている節、でも気づけば痛みを回避し先送り、といった一連の指摘は納得感あり。
  • 一方で、(経済学の理解のない)世論に対する冷めた目線も感じられた。先端の経済学的知見をいかに世論と接続させていくか。経済はこの接続がもっとも重要な政策領域といってもよい。エビデンスベースドポリシーはいかにして可能か。

 

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