モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】1984年(ジョージ・オーエル, 高橋和久訳)

書籍情報

【概要・雑感】

  • 一度は読んでおこうと思っていたディストピアもの代表作。AI時代になにかと引き合いにだされる。図書館の予約がようやくまわってきたので読了。
  • 監視社会の様相が知られるところだが、ディストピアの本質は、権力にとって悪しき行いが管理されることではなく、思考すること自体が奪われること。そのために、記録は禁止され、歴史と報道は常時改ざんされ、語彙は不要とされる。これらが幾世代か経ることで、当然のものとして受け入れられていく。ここに至っては、“胸中の公平な観察者”は少なくともアダム・スミスの想定外の価値基準を持つだろう。
  • 一方、本書にあるほど熾烈な方法がとられずとも、あるいは意志に基づく選択として、思考を放棄する機会に恵まれた社会になってはいないか。そんなことを考えさせられる一冊。
  • 後半明らかになる黒幕が発散する“悪”の迫力は見もの。システムによる脅威より、個が発する“悪”の表現に本作のだいご味を感じた。この人物の話調に、村上春樹の登場人物が重なったのは私だけか(羊の黒服の男、ねじまきのソ連軍将校、カフカの父親)。

 

【もう1冊】

  • 幸福な監視国家・中国(梶谷懐,高口康太,2019,NHK出版)⇨ “監視社会”中国の現状を、これを受容する社会の状況や国民の心情にも着目したルポで示される。その上で、「公」と「私」の関係、「公共性」と「合理性」の関係が考察される。大切な論点が多々埋まっている良著。