モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】ソ連史(松戸清裕)

  • 理解が求められる隣国。20世紀以降の点でしか教科書に登場しない国、農奴社会主義革命・シベリア・冷戦・ピョートル一世・ドストエフスキーレーニンチョムスキーシャガールガガーリンボルシチくらいしか思いつけない国。いまになって、よくこれだけの理解で生きてきたものだと反省。
  • いざ入門書を探すと、なかなかない。2011年発刊の本書は、ロシア革命からペレストロイカまでの、政局を中心としたソ連史をたんたんと記述。コンパクトな新書でありがたいが、ロシア史もかるくおさらいしてくれたら親切だった。
  • 一般に流布するソ連のイメージを、①冷戦の敵役・悪役で敗北した、②共産主義建設の実験に失敗し国民を犠牲にした、③民意を無視した全体主義国家、と考え、それとは異なる側面を示すことを目的とする。
  • これに対し、①指導部も西側との争いを望んでいたわけではなかった、②指導部に限らず多くの人々は共産主義建設が国民を幸せにすると本気で信じ、本気で信奉した国民が少なからずいた、③ソ連史の大部分は共産党一党支配で政権選択の可能性はなかったが、党と政権は民意と不満をくみ取ろうと努力していた、といった点を史実・歴史解釈に基づき主張
  • スターリンの大テロル、繰り返しおきる百万人単位の飢饉、第二次大戦での圧倒的死者数、計画と目標を混同し量をみて質をないがしろにする計画経済、スターリン個人を批判するも主義・システムは是認するフルシチョフ、募る西側への不信、国内はぼろぼろだが東の盟主としてふるまわざる得ない国際情勢・・・。この間の西側諸国の経済成長に照らすと、停滞・閉塞感につつまれ続けてきた印象を受けた。
  • ソヴェト制度はもともと議会制や権力分立を否定し、立法と行政を統合して大衆の統制下におこうとしたもの、とのこと。カントが“永遠平和のために”でいうところの、立法と執行が分離しないことがもたらす不正は、見事にソ連において顕在化した、ともいえる。
  • なぜこれほどまでの粛清、飢饉が起き、生活条件は大きく劣後したままなのに、国民は指導部に従い、一部は信奉するといったことがおきるのだろうか。共通の敵に対する結束意識?覇権の中心である欧州への対抗意識と羨望が入り混じった自負心?凍土と農奴制が育んだ諦めの世界観が生み出した固執?安定と引き換えに体制への従順がなされてきた70年代の歴史(暗黙の社会契約)?なにかしらの背景に科学的無神論の影響?・・・
  • まったく想像がつかないが、少なくとも想像すらつかないなにかによって、結束し、突き動かされる国民性、というようなものはあるのかもしれないという推測を持った。

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