モグラ談

40代のリベラルアーツ

【美】鏑木清方展(東京都国立近代美術館)

  • 日曜美術館を見ていて、会期が迫っていることに気づく。大手町から皇居沿いを歩く。散歩日和の五月。没後50年の記念展、2018年に再発見された“築地明石町”を含む大規模回顧展。西の松園、東の清方。音声ガイドは尾上松也さん、とてもよかった。
  • 清方芸術の柱は“生活”。細部に説明を尽くして表す。美人画で有名だが、美人画も季節を巡る暮らしがないとなりたたないとする。日常生活への愛、巷の風景、焼き芋、絵双紙屋、鰯売り・・・。明治後期の画壇では歴史画が本流の中、季節とともにする生活に美を見出す。
  • 美人画でのまなざし。どこか宙を見つめる。何か見ているようで、何かを想っている。頭に浮かぶ、暮らしがつくってきた情感を眺めているかのよう。瞳と唇に情がのる。
  • 佇む貴婦人を描いた“筑地明石町”(1927)、踊り稽古帰りの娘“浜町河岸”、秋雨を歩く新富芸者 “新富町”(1930)の3部作が目玉。築地明石町、“袖かきあわせてふりかえりみるイギリス巻きの女の瞳にすむや秋”(清方)。細身長身、深い二重、イギリス巻きは多くの美人画で描かれる日本人と異なる佇まい。透き通る白肌、生え際の美、平坦な首元。着物の淡青と繊細な柄が気品を高める。見据えた視線に意志を感じる。
  • “明治風俗12か月”。震災で失われた明治の風俗・生活を美しく残す。
  • 小説から着想を得、想像し、顕す。挿絵画家として出発し、泉鏡花に憧憬した清方、暗唱できるほど読み込んだ一葉のたけくらべ。物語性のある作品、情感のやりとりを切り取ったようなまなざし、空気間が伝わってくる。 “佃島の秋”、「この花やるよ」「え、いいの?」、はにかみ、恥じらいとともに聞こえてくる風景。
  • 随筆家としても優れていた清方。“こしかたの記”、神保町で探すが見つからず。図書館で随筆集を予約。
  • MOMATコレクション展も観覧。黒田清輝“落葉”、和田三造“南風”、岸田劉生など確認。跡見玉枝 “桜花図鑑”の色彩、日高理恵子“樹を見上げてⅦ”の寂寥、奈良原一高“人間の大地”の生命力を発見。

“願わくば日常生活に美術の光がさしこんで、暗い生活をも明るくし、息つまるような生活に換気窓ともなり、人の心に柔らぎ寛ぎを与へる親しい友となり得たい”(清方)

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