モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】愛(苫野一徳)

  • 直球タイトル。哲学の意義は、本質を洞察し原理を提示することとし、愛をその対象とする。
  • “わたしたちのうちにありありと感じられる愛の感情、体験。その本質を内省によって洞察し、それが真に普遍性を備えたものであるかどうかを確かめること。このような本質洞察のほかに、わたしたちが「愛」の本質を明らかにする方法はない”とする。
  • 愛の本質を「合一感情(これは”このわたし“のもの)と分離的尊重(これはわたしの”大切なもの“)の弁証法(合一と分離という一見矛盾するものがなんら矛盾することなく統合している状態)」とし、それは理念性をもち、ゆえに審級性(ランク)があると導く。また、根本とまではいわないが歴史的関係性(≒お互いの接触の時間の長さによらない反復性)も本質の一つとする。これによると、図式的には以下のようにいえそう。そしてこの構図が、性愛、友愛、恋愛、親の愛など、様々な愛で適用可能なことを説明していく。
    • 欲望(愛ではない)→このわたしのエロス(快)が掻き立てられること(執着はこれへの拘泥、執着を破壊するものへの攻撃欲望が憎悪)
    • 愛着(愛の入り口)→このわたしを受容し肯定してくれる歴史性を帯びたもの
    • 愛→魂の共有感+それ自体として大事にしたいという尊重
    • 真の愛→相手の存在により私の存在意味が充溢+私には絶対回収されないという尊重確信
  • 先人の箴言を、著者の私案の傍証として、あるいはこれを成立させるための架け橋として多数引用する。若いころから愛について思索してきた著者は、おそらく先人の文章を帰納的整理の素材として、あるいは自身の内省を出発点とする演繹的な展開の伴走者とすることで、持論を形成してきたのかなぁ、と推測。
  • 読み終えて著者の心の整理につきあった感なくもなし。愛の定義をいくつかの状況に適用しうることをもってその妥当性を示すが、定義が状況に整合的であることと洞察が感動を生むのとは別。
  •  “わたしの歌を読むたびにお感じになりませんか?わたしはひとり、でもあなたとふたりでいるのだと(ゲーテ)”。これを言葉を尽くして著者自身が納得する旅に同伴したような。
  • でも、整合的な定義はなるほど、と思うところも多し。まさに自身を洞察し、普遍性の根拠として提示する。

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