モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】神曲 地獄篇(ダンテ作、平川祐弘訳)

  • タイムズ誌の文芸付録で「過去千年間の最高傑作はなにか?」と文芸批評家にしたアンケートで選ばれたらしい本作。聖書を除けば、歴史上の最高傑作、という評なのかもしれない、キリスト教世界においては。原題はイタリア語で“La Divina Commedia”。はじまりの地獄篇は全34歌。就寝前に1歌づつ読み、昨晩、読了。
  • いまから約700年前、ユリウス暦1300年の聖金曜日、森に迷い込んだダンテ、古代ローマの詩人ウェルギリウスに出会い、導かれるかたちで地獄、煉獄、天国の3界を訪れることになる。まず1日で地獄をめぐる・・・
  • 原典は、三行を一連とする「三行韻詩」で、各行11音節のようだが、日本語訳では三行一連は維持しつつも、音節は当然、完全には踏襲できない。しかしながら、平川訳は流れるように頭の中で韻がふまれる。この小気味のよさ。テンポよく情景が流れていく。各歌で1,2枚の挿絵がはいる。これがまたおどろおどろしい。想像力をかきたてる。ページをめくらせる。
  • 松岡正剛氏は書評で絶賛の極み。

“驚嘆、飛翔、篤信だ。回復しがたい罪状であり、壮大きわまりない復讐である。あるいは偉大な作為そのものだ。それなのに至上の恋情で、比較のない感銘の比喩である。また深淵の祈念で、阿鼻叫喚であって、それでいて永遠の再生なのだ。”

  • ウェルギリウスとともに、9つの圏谷(たに)をめぐる。様々な罪、様々な欲、様々な罰、罰する側、罰される側。登場する世界の造形のすさまじさ、地獄篇でこのスケール、このあと続く煉獄篇、天国篇と壮大さに目がくらみそう。なんたる想像力。
  • 少しでも悪さをしたもの、少しでもキリストへの信仰にゆるぎのあるもの、少しでもフィレンツェに敵対するものは、次々と地獄に送られる。圏谷が進むとともに罰は壮絶になる。阿鼻叫喚、なるほど。私はたぶん業火に焼かれ、首をちぎられ、路上に磔刑にされ、糞尿に浸され、氷漬けにされるはず。就寝前に読むのは間違った習慣だったと気づく。
  • ラスボスの悪魔大王の絶対性。そこで噛み砕かれるは、キリストを裏切ったユダ、カエサルを殺したブルトゥスとカシウス。鳥肌がたつ。

“人生の道の半ばで

 正道を踏みはずした私が

  目をさました時は暗い森の中にいた”

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