モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】資源争奪の世界史(平沼光)

  • エネルギー史に興味を持ちまずライトな感じのものを図書館で。
  • 著者は、東京財団の研究員。エネルギー関係の国の部会委員も務める。本著は、エネルギー≒化石燃料、という観念をはらい、広く資源の観点から、覇権争いの歴史を整理。サブワードは、スパイス、石油、サーキュラーエコノミー。
  • 人類の歴史を文明の発展と戦争の反復とみれば、その底流には常に資源獲得競争があったことに気づかされる。そしてこの競争の勝敗は、資源の保有よりむしろ、技術とルール設計を握ったもの、という事実が並べられる。
  • 資源獲得競争には、技術が誘発し技術が終焉させる側面をもつ。16世紀にはじまるスパイス獲得競争は、造船技術の発達による大航海(と植民地化)が誘発し、自国・近隣国での移植技術の進化が終焉させた。石油もシェールガスの発掘技術で争いは緩和。
  • 日本は二度の石油ショックでエネルギー政策への切実さが高まったが、原子力の推進と化石燃料の海外依存(石炭、天然ガスへのシフトと石油備蓄)、を採択。海外依存という根本は変えず。
  • エネルギーの変遷と技術
    • 造船、鉄の増産に大量の木炭を要し森林面積激減(17世紀)→石炭の精錬技術の発達と銑鉄技術の確立(18世紀前半)→蒸気機関(コメン、ワット)→機械掘りによる石油採掘成功(1859、ドレーク)→石油メジャー誕生(1870、ロックフェラー)→シェールガス掘削・生産技術革新(2000年代)→再生エネルギー
  • 豆知識:
    • スペインは再生可能エネルギーを主力電源化。2009年時点で水力除く再エネ比率6割強。発送電の所有権を分離し、再生エネルギー発電の排除要因を除外。再エネ課題の変動調整のコントロールセンターの設置。
    • 日本は一時期、太陽光発電をけん引したが、太陽電池セルの生産量で中国に圧倒的に差をつけられる。主原因は原材料(シリコン原料)の調達に失敗したこと。
    • 京都議定書(2005)は発効まで8年要したが、パリ協定(205)は採択1年後に発効。その背景には、危機感の表れとともに、AI、IoT、ビッグデータによる再生可能エネルギー導入技術の革新で、再エネ変動制のコントロールの現実性が増したことがある。もちろん事業機会も。
    • パリ協定目標達成シナリオにおける発電力量構成(2014→2040)(IEA、2016):再エネ(22→58%)、石炭(41→7%)、原子力(11→18%)、石油(4→1%)
    • IoE(Internet of Energy)の標準化活動は欧州で急速に進む。
    • 需要サイドが影響力を高める。企業グループのRE100(Renewable Energy 100%)は自社の消費エネルギーの100%再エネ転換を目指す活動。GAFA参加、日本企業も53社(2021/4時点)。背景にESG投資という投資家目線。
    • 欧州の大手電力会社は、火力・原子力事業を採算悪化部門として切り離し、本体としては成長部門(再エネ、スマートグリッド等)にシフトする傾向。ドイツのON、RWEなど。
    • 海洋再生可能エネの可能性(ブルーエコノミー)。洋上風力、潮力発電、海洋温度差発電など。世界のエネルギー需要の最大400%を賄えるとの試算。
    • 再エネの需給調整にEVを利用(V2G:Vehicle to Grid)。EVを電力系統に接続し再エネ余剰電力をEVの蓄電池に充電。すでに実用開始。余剰電力の蓄放電方法には、電力を水素に転換(P2G:Power to Gas)も注目される。
    • 再エネ普及に伴う再エネ発電設備の導入にあたり、レアアース等鉱物資源が大量に必要(風力発電タービンに必要なジスプロシウム、EVに必要なコバルトなど)。欧米ではそれぞれ重要鉱物を指定し戦略的扱い。
  • 農業技術が飢餓を減らし、ワクチンが感染病を抑制してきたように、環境技術がある閾値を超えることで資源獲得競争は戦争の誘因とならぬ時代がくる。そんな期待を再生エネルギーとサーキュラーエコノミーにみたい。楽観的に過ぎるかもしれないが。

 ”各国政府が二酸化炭素排出削減を目指すなかで企業が石油を探査する健全な論理的根拠はない(ロックフェラー・ファミリー・ファンド、2016)”

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