モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】戦略的思考とは何か(岡崎久彦)

  • いわゆる最近の思考法本ではない、骨太の戦略的なものの見方を、軍事防衛戦略を主題に解く。名著。
  • 著者は、戦前生まれの外務官僚。調査畑を経て、初代情報調査局長。サウジとタイで大使。祖父は陸奥宗光の従弟。
  • “日本人は論理的思考が苦手であり、戦争のように起こるか、起こらないかわからないような相当な抽象的論理的思考が求められる事象ではそれが如実に顕れる”、“理論的なコンセンサスの積み重ねでなく、まず政治的立場ありきで自己正当のための理論が自己増殖する傾向”という冒頭の著者認識から惹きつけられていく。
  • 1983年初版だが、示される本質はいまも変わりないと感じる。中国の存在感の増加と米国の存在感の低下は執筆時点では予見できなかったこと。これをどう組み込んで現状分析するか。
  • 主に日清戦争から冷戦後までを対象に、多面的に現実を捉えたうえでの戦略の在り方と、実際の日本の選択を対比しながら、日本における思考スタイルと戦略性の欠如を指摘していく。以下備忘。
    • 問題点が全部わかれば問題は半ば解決したのも同然。客観情勢の緻密な分析評価が基本。国内事情からくるこだわりや希望的観測を一切排して曇りない目でみることが必要
    • 日本が一度も異民族の支配を受けたことがない事実は、国際政治の厳しさに対する日本人の楽天主義の元になっている
    • 対外侵略の意図も能力もなく、他面北からの脅威には敢然と抵抗する意思のある国(韓国)が大陸本土と日本の間に介在していることは日本の安全にとってこれ以上ない地政学上の好条件
    • 日本の戦争のやり方は、戦闘能力重視と情報・戦略軽視の最たるもの(勝てそうかどうか見極めてから戦闘するのではなく、与えられた兵力でいかに任務を遂行するかを考える)
    • 軍事力比較で大局的に有意義な物差しは、ほぼ同義(パリティー)かいずれかが明白に優位であえるかの二つ。僅少な差は差ではない。
    • 戦争は、殆どどこかの国内の政治的事件を契機として始まり、いざ始まるとその時点の力関係で左右。他国情勢の完全な予測は困難なため、いかなる小さな政治的事件もリスク要因と捉えて、情勢判断と外交に努力を傾注するしかない
    • ロシアの極東進出の特殊な動機は、大洋への出口の確保と不凍港の獲得、通商の必要、の2点。ロシアでは、“一度ロシアの国旗が掲げられた土地においてはけっしてそれが降ろされてはならない」(ニコライ1世)が領土に対する基本的考え方。
    • 中国は完全に自主独立の国で、自分の国益にだけしたがって行動する自由を持っている(中国をあるがままのものとして捉えるしかない)
    • 極東の力の実体は、アングロサクソンとロシアしかない、が情勢判断の対局を見誤らせない本質。日本は実体になりえない、中国は19世紀の近代化に立ち遅れて以来実体ではない、ジャーナリスティックな多極構造というキャッチに振り回されない、という認識の必要性
    • 「騎士道的であることは、敵の抗戦意思を弱めさせる最も効果的な武器である」(リデル・ハート
    • 米国の外交能力を低くしている原因としてのリベラリズムの要素は、国際問題に対する無関心、国内的解決方法を国際問題にあてはめようとすること、国際問題について客観的公正になろうとすること(ハンティントン)
    • 戦略がよければ戦術的な間違いは取り返しがつくが、戦略が悪い場合は戦術でカバーできない
    • 軍事バランスの現実の上にだけ防衛構想を築くという習慣の確立が“平和愛好的で、勘定高い”デモクラシーの防衛思想を日本に根付かせる最も自然な方法
    • 日本は決戦思想で一発勝負。アングロサクソンは、勝負は五分が普通、勝っても負けても四分六で、そのあと有利にもっていったほうが勝ち、という考え方
    • 日本の重要な戦略目的は、日本周辺だけが脆弱な一環とならないこと、アメリカの核を使ってエスカレーションの危険を冒さなければ日本を守れないような状況にしないこと
    • 直接の防衛能力以外での日本の弱点は、食料・資源の海外依存度の高さ、高度の過密社会、根強い反戦平和志向

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