モグラ談

40代のリベラルアーツ

【美】生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎(アーティゾン美術館)

  • 1882年に久留米でともに生を受けた二人。日本の洋画が成熟に向かう中で、それぞれ独自の作風を探求。28歳で夭折した青木、40歳前にしてパリ留学を経て緩やかに画風を変化させていった坂本。同郷の二人の回顧展。
  • 青木は、記紀万葉などの日本の神話から着想を得た。イザナギイザナミの別れとなった“黄泉比良坂”は、当時、“奇なる画題”と評された。独自の世界。手前に配置された青緑の混沌と出口に見える印象派のような黄色の明るさ。緑の闇と同化する裸婦。気が流転している。観る者を撃つ想像の世界。記紀神話からの着想の可能性を感じる。
  • 青木の代表作、“海の幸”。房州布良(めら)海岸に坂本らと写生旅行に訪れた際、大漁でにぎわう浜辺の様子を坂本から聞き、想像で一気に描きあげたという。大きなサメを複数つるし、10名ほどの漁師が浜辺を歩く。隊列を組み行進するような全体から意志的、あるいは儀礼的なものを感じる。力強く描かれた漁師の輪郭が縦の軸を、手に持つ銛と行進の流れが横の軸を作る。青木のイメージを創る力に圧倒される。青木曰、“人間の歴史の破片が埋められて居たに違いない”。
  • “わだつみのいろの宮”は、失くしてしまった兄の釣り針を探しに来た山幸宮が豊玉姫と海で出会ったシーン。縦に長い構図はラファエル前派の影響、色づかいはモローから感化されたとのこと。
  • 絶筆となった“朝日”には、なにか神々しさを感じないわけにはいかない。
  • 一方の坂本。青木に誘われ上京。山村の生活、風景に“らしさ”を観る。土や草いきれの匂い、海風がもたらす湿り気ある温暖などが伝わってくるよう。人々やその生活をじっくり観る姿を想起。
  • “町裏”で描かれた運夫。薪を束ねた紐をつかむ指先、こもる力が伝わってくる写実性。想う青木、見つめる坂本、といったイメージが浮かぶ。
  • パリ留学で色彩の明るさを身につけた坂本。帰国後は馬を題材とした作品を多数。有名な“放牧三馬”は、中央の白馬がペガサスのような高貴な佇まい。三馬の構成にしっかりとした落着き。空の水色、瞳のエメラルドグリーンに、かつての農村風景の写実とは異なる神話性を感じる。
  • 留学前は武蔵野の牛を好んで描いた坂本。“牛は、自然の中に自然のままでおり、動物の中で一番人間を感じません”とのこと。
  • アーティゾン美術館はじめての訪館。都心の美術館らしいシックと落着きの併存。絵との距離も近い。いい感じ。

展覧会情報