モグラ談

40代のリベラルアーツ

【映】卍(増村保造)

  • 谷崎原作の映画化。光子役に若尾文子、園子役に岸田今日子。1964年/90分/日。
  • 原作に忠実。ストーリーもセリフもひとつひとつ同じ。原作に比べ圧縮されるが、光子が妊娠していないことを告げるタイミングと、梅子の役割以外は原作そのままではないか。製作側は原作を忠実になぞりながら、自分なりの審美感をのせていったのだろう。多作量産の時代。
  • 園子役の岸田今日子の狂気。甲高い声、感情的な目元・口元が助長する。その後ムーミンの声優をするなどとても想像できない。綿貫役の川津祐介のねちねち感も原作のイメージを高める。
  • 常に破局を感じさせつつ、じわじわと高め、ラストで一気に堕ちていく原作の醍醐味は伝わったか。
  • ラストは、実は、3人のだれかの企みであることの示唆があったのかもしれない、と映画をみて思った。“藪の中”のように。
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【映】パターソン(ジム・ジャームッシュ)

  • 「ブラック・クランズマン」のアダム・ドライバーがよかったので、ウォッチリストから。2016年/118分/米。
  • 超久しぶりのジム・ジャームッシュ作品。学生のときに好んでみていたのを思い出す。前回観たのは、「コーヒー&シガレッツ」だったか。
  • 静かにはじまり心地よく進んでいく。まさに心地よく進む。これがジャームッシュのスタイルと思い出す。
  • 妻と目覚め、心の通っているのか通ってないのかわからない愛犬がいて、詩の言葉を考えながら職場に歩いて向かい、乗客の世間話に耳を傾けながらバスを運転し、犬の散歩がてらきまった時間にいつものバーにいく。定時定型の満ち足りた幸せな生活。必要なものは手元にある。
  • ジャームッシュ作品、昔感じたものと異なるものを感じる。かつては、ファッションだった。総合的で個人的な様式美というか。本作は、永瀬正敏との会話のシーンにこそかつてを想起させるが、全体としてこの様式美がドラマと融合してきたというか、熟練を感じさせる一作。
  • 作品の開始から終わりまで、“しみじみ”を表現し続けることで、静けさや親密さとそこにある幸せを観るものの心にしっかり残していく。本作はさらに踏み込み、“ここにある生活・ここにある幸せ“のありがたさをある種の正義のように、そうでない流れへのアンチテーゼとして示している、ようにも思える。
  • 詩をモチーフとする詩的な映画。起承転結のない世界。

“We have plenty matches on our house. We keep them on hands always”

【映】プライドと偏見(ジョー・ライト)

【映】ブラック・クランズマン(スパイク・リー)

  • ひさしぶりのスパイク・リー作品。製作はジョーダン・ピール。ジョン・デビット・ワシントン主演、アダム・ドライバー助演。カンヌグランプリ。2018年/135分/米
  • 黒人刑事が白人至上主義団体「KKK」潜入捜査した実話をつづったノンフィクション小説を、「マルコムX」のスパイク・リー監督が映画化。(映画com)
  • 白人に対するヘイトスピーチ、黒人やユダヤ人を罵倒するクランズマン、凄みがある。想像の及ばない憎悪の世界。ひとつひとつが脳みそに針を刺されるような感覚。異なる人種への憎しみを知らない自分は作品のストーリーに集中できる。そうでない聴衆は本作をどう観たか。
  • ヘイトスピーチに感化されていく人々。暗闇を背景に表情を重ねる。クィーンのPVへのオマージュかのよう。
  • 主演のJDワシントンはデンゼル・ワシントンを父親に持つ。少しユニークキャラ。ときおりまぜるカンフーアクションがおもろ。潜入捜査ものは、捜査官への共感をどれだけもたせられるか。助演のアダム・ドライバー、なんだか惹きつけられる。
  • テロや隠ぺいは批判するが、差別する側、される側、作中でどちらかを直接裁くことはしていないようにみえる。ただ、差別や憎しみそのものをそこに提示する。ただし、それを煽り、たきつけた政治は強烈に批判するラスト。
  • 部外者にも人種差別の根深さを突き刺してくる。改めてオバマの就任は奇跡だったと思う。そして次がもたらした分断は容易に修復されないかもしれないとも。
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【映】それでも夜は明ける(スティーブ・マックイーン)

  • 「SHAME」のスティーブ・マックイーン作品。製作にブラッド・ピット。アカデミー作品賞受賞作、2013年製作/134分/米英合作
  • 拉致され南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記の映画化。南北戦争直前の世界。
  • 「アンテベラム」を想起しながらみる。本作は、2時間強、差別され、虐げられた状況が続く。そして最期に救われる。娯楽作品としてのプロット、展開があるわけではない。淡々と長々と抑圧された世界が描かれる。伝記に基づくことが重みを増すが、作品としては単純。最期まで飽きさせないのは演出の力量か。
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【映】MINARI

  • ウォッチリストから。タイトルのMINARIは、韓国語でセリの意味。最近よく観るスティーヴン・ユアン主演。アカデミー賞で計6部門にノミネート、祖母スンジャを演じたユン・ヨジョンが助演女優賞。2020年/115分/米
  • 1980年代のアメリカ南部を舞台に、韓国出身の移民一家が理不尽な運命に翻弄されながらもたくましく生きる姿を描いた家族映画。(映画com)
  • まさに家族の物語。新たな地で成功したい父親、子供の健康と将来を考える母親、不便を感じながらくったくなく生きる子供たち、新たに加わりささやかな波風と安定をもたらす祖母。たんたんと描かれる。
  • 変化で惹きつけるわけではない。応援したい気持ち、なにか起きるのではないかという波乱への不安、俳優ひとりひとりのシンプルだがまっすぐな表現、アクセントをつける祖母のユニーク。きづけば2時間が過ぎる。
  • ゴールデングローブ賞の主催団体は、台詞の半分以上が朝鮮語であることを理由に、本作を作品賞の候補作から除外し、物議をかもした。言語で映画を区分するという発想に理解及ばない。
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【映】PLAN75(早川千絵)

  • ウォッチリストから。75歳以上が自ら生死を選択できる制度が施行された近未来の日本を舞台に、その制度に翻弄される人々の行く末を描く(映画com)。2022年/112分/日・仏・フィリピン・カタール合作。
  • いろいろ思考が飛ぶ。ロールズベンサム、あるいは、”誰に喰わせてもらってると思ってるんだ”とはじめて口にした人類は誰か、あるいは年金受給開始年齢延長や安楽死制度との異同、自死の受容と宗教 等々。
  • 死へ誘うこのサービスは極めて親身丁寧に運営される。これならばよいのでは、と思わせる。サービスに浸っている私たちは、その意味に立ち返ることなく、その品質と利便性で判断し、自らの変容を無意識に受け入れていく。
  • 倍賞千恵子の背中に母親を見ないわけにはいかないはず。生命を社会システムとして扱う危険への警鐘ともとれるが、作品は冷静に中立に描かれる。
  • 演者が皆すばらしい。早川千絵監督、本作が長編一作目とのこと。これからも注目したい。
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