モグラ談

40代のリベラルアーツ

【映】アナザーラウンド(トマス・ビンターベア)

  • マッツ・ミケルセン版のハングオーバーかな、と勘違いするも、よい意味で裏切られた。アカデミー賞国際長編映画賞。2020年/115分/デンマーク
  • 冴えない高校教師のマーティンと3人の同僚は、た「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を証明するため、実験をすることに。朝から酒を飲み続け、常に酔った状態を保つと授業も楽しくなり、生き生きとするマーティンたち。生徒たちとの関係も良好になり、人生は良い方向に向かっていくと思われたが……。(映画com)
  • ミドルエイジクライシスの悲喜劇。なにというわけでもなく、避けがたいほどに向き合うことが難しくなるという、少なからぬ人に訪れる人生の真実を巧みに描きだす。
  • ミケルセンのダンスは秀逸。清々しささえ感じさせるラスト。
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【映】サンザシの樹の下で(チャン・イーモウ)

  • 紅いコーリャン」「活きる」などのチャン・イーモウ監督作品。2010年/114分/中国。
  • 文革の影響を基底に愛し合う二人を描かせたらイーモウ監督。本作でも主人公の女子高生ジンチュウが文革下の再教育として送られた農村で青年スンに出会いひかれあう。身分の違う二人は距離を縮めていくが・・・。
  • 暗い世相を背景にしながら描かれる純愛映画。純粋・純愛の上澄みが中国の街並み・農村で展開する。恋愛映画に欠くべかざる演出も多く盛り込まれる。身分の違う二人、文句のつけようのない青年、だけど不幸を抱えこむ青年、生まれる誤解とすれ違い、不治の病が削る残された時間、永遠の別れとそこで凍結される熱愛。
  • 河越しの抱擁は名シーン。恋の原風景。
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【映】NOPE(ジョーダン・ピール)

  • ゲット・アウト」「アス」のジョーダン・ピール監督長編3作目。「ゲット・アウト」のダニエル・カルーヤ主演。「バーニング」のスティーブン・ユアンもちょこっと。2022年/131分/米。
  • 田舎町で牧場を経営するヘイウッド家。ある日、突然空から異物が降り注ぎ、父親が不審死する。飛行物体を撮影しようとする兄弟だが・・・。
  • オープニングから期待を高める前半。静けさの中になにかの予兆を感じさせる。しかし、その先は逓減。なんていうことのないSF作品の印象。
  • ひとつひとつのショットは高質。常に緊張感をまとうショット。それなりにドキドキさせられる。
  • 宇宙船の造形はなかなか進化しないものだと思う。
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【映】セラヴィ!(エリック・トレダノ、オリビエ・ナカシュ)

  • 前から気になっていた作品をウォッチリストから。「「最強のふたり」の監督が描くコメディドラマ。ジャン=ピエール・バクリ主演。2017年/117分/仏。
  • 引退を考え始めたベテランウェディング・プランナーのマックスは、古城を式場にした結婚式をプロデュースすることに。大仕事でミスは許されない中、トラブルが続出し・・・。
  • 神経質とプロ意識に満ちた主人公、みるからに問題を起こしそうなその友人、癖のあるスタッフたち、面倒な新郎とその母親。ほのぼのしつつ、ハラハラしつつ楽しめる。出演者は初見の俳優ばかりだったが、この種の作品を支えるひとりひとりの個性は十分。
  • 様々な階層、人種がもつ慣習の違いがちょっとした衝突の基底に垣間見える。だけど“愛”が最期にまとめあげる。フランスコメディの鉄板。
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【映】リチャード・ジュエル(クリント・イーストウッド)

  • 「運び屋」に続きイーストウッド作品。ポール・ウォルター・ハウザー主演、主人公の母をキャシー・ベイツ、弁護士役を「スリー・ビルボード」のサム・ロックウェル。2019年/131分/米。
  • ‘96年アトランタでの爆破テロ事件を扱ったサスペンス。警備員のリチャード・ジュエルは不審なバックを見つけテロから多くの人命を未然に救う。マスコミで騒がれ英雄視されるジュエルだが、一方でFBIからは容疑者として捜査が進められ・・・。
  • あげては落とす本性のマスコミ、真実よりケリをつけたい司法警察、朴訥で正直で無器用だが頑固さをあわせもつ主人公、彼を支える熱血弁護士と母親。それぞれの正義がぶつかりあい、エゴが露わになる。
  • サスペンスだが、特別な展開があるわけではない。ひとりひとりが力強く描かれる。作品としての力量が伝わってくる。胸のすくラストは用意されている。
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【音】エリアス弦楽四重奏団ベートーヴェン・サイクルⅠ~Ⅵ(サントリーホール2023/6/14)

  • アンサンブルを聞きたくチェンバー。エリアス弦楽四重奏団は1998年マンチェスター結成でベートーヴェン弦楽四重奏曲をレパートリーの中核に据えてきたとのこと。
  • 全6公演の最終日。この日は、4番、10番、13番。調和よく上下する4名の弓がメンバーのコラボレーションを感じさせる。
  • 反復が印象に残る4番、“ハープ”の愛称の由来となるピチカートが耳に残る6番、聞きなれない、ある種、現代音楽への源流を感じさせるような13番。
  • 親密で豊かな時間。アンサンブルいいね。

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【美】部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで(ポーラ美術館)

  • 移動が制限された状況で多くの人が多くの時間を過ごした「部屋」という空間に注目し、19世紀以降のこれにまつわる作品をとりあげる。モリゾ、ハマスホイ、ボナール、ヴュイヤール、マティスティルマンス草間彌生など。
  • ハマスホイの“陽光の中で読書する女性、ストランゲーゼ30番地”。幸福がたたずむ。静けさをまとった空気と質量を感じる。
  • ボナールの作品11点。子供たちや、猫など日常を描く。暗緑とぼかされた輪郭線がどこかしらもの悲しさを生むが同時に安寧を感じさせる。ボナールの代名詞ともいえる浴女2作展示。室内の大きなタライで体を洗う。室内という私的空間の、そのまた私的空間で行われる私的行為。
  • マティスはたしかに“部屋の画家”かもしれない。ニースの陽光に照らされた部屋と女性を描く、というイメージがあった。室内の調度品、壁紙、カーペット、花瓶や植物を色彩で生まれ変わらせる。モデルの女性の服装とこれらの色彩の対比が印象づく。
  • ベランダやバルコニーを好んで描いたモリゾ。女性の社会進出を背景に、屋内と戸外の境界を意味するこれらの場所を、閉じ込められてきた家と社会という外の世界の境界と暗喩し、そこに女性を佇ませる、ということらしい。
  • コレクションの印象派作品を観て帰路。藤田の言葉が印象に残る。

       “線とはたんに外郭をいうのではなく、物体の核心から探究されるべきである”

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