モグラ談

40代のリベラルアーツ

【美】-意識のながれ-岩田壮平日本画展 ほか(成川美術館)

  • 恒例の箱根美術館めぐり。まず成川から。企画展の岩田壮平は華道に原点をもつ日本画家。 “大胆、繊細、高揚感”“内面の表出よりむしろ企てられた形と色の解釈”“絵の具そのものがもつ感情を組み立てる喜び”と、同氏の紹介文にあった表現にひとしきり納得。
  • おしべのマチエールや鮮烈な朱に惹きつけられる。ぼたんが伝える儚さ、退廃と生命力の輝き。
  • 別室の“日本画の煌めき”では、おなじみの魁夷、高山辰雄平山郁夫加山又造など。同じく別室の堀文子の“野の花にひかれて”では、自然を求めて世界を旅した彼女がひかれた草木を展示。いさぎよさ、気品、慈愛のまなざしに満ちる。
  • 齋正機の“只見線とそれぞれの鉄道物語”は、豪雨被害で不通となっていた只見線の復旧を記念した企画。素朴な筆致、淡い色彩が、自然に生きる人々や、自然と生きる日々の美しさを改めて感じさせる。ぼかされた輪郭線が自然と人工物と人間の境界を溶かし、お互いを溶け込ませる。

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【美】ルーブル美術館展 愛を描く(国立新美術館)

  • 神話画、風俗画、宗教画など、様々な主題で表現されてきた「愛」。ルーブルのコレクションから、16~19世紀半ばまでの73点を通して浮き彫りにする。テーマオリエンテッドな趣向の展覧会。サブタイトルは、”ルーブルには愛がある”。音声ガイドは、満島ひかりさんと森川智之さん。
  • まずブーシェの“アモルの標的”。たしかに“愛”はロココの中心イメージ。大人びた表情のアモル。ぷくぷくしてかわいらしい。標的のマトには複数の矢がささる。一回では容易に成就されない愛を表現。
  • アリ・シェフェールの“ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊”。神曲の一場面。霊界の妖気・妖艶に惹きつけられる。
  • フラゴナールの“かんぬき”。本展覧会の目玉のひとつ。本物の迫力。卓上のリンゴは愛の象徴。さまざまなオブジェクトが愛のメタファーとして登場。
  • ヘブライの信仰やイエスが生み出した“愛”という観念。以降、世界をある意味支配してきた。神は自己の似姿として人間を創造した。なぜなら、神は愛そのものであり、愛は他者を求めるものであり、求める対象として人間が必要だったから。そのため、似姿である人間はかけがえのない存在。無常からくる、かけがえなさ、とは異なる世界。こうした観念の薄い自分には理解の及ばない世界があると想像。
  • 久しぶりに妻と二人で。中国飯店でランチし、ソルソパークでカラテアを買って帰宅。アモルとニンフを浴び続けた一日。

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【映】運び屋(クリント・イーストウッド)

【映】ベルファスト(ケネス・ブラナー)

【映】ダンケルク(クリストファー・ノーラン)

  • ドイツ侵攻を受け、仏ダンケルクから英兵の大規模脱出を描く。「ダークナイト」「TENET」のノーラン作品。2017年、106分、米。
  • セリフよりも銃声、銃声よりも静寂が作品全体を支配する。独特な空気。緊迫感を生む。
  • 浜辺に追い詰められた兵士。逃げ場がない。受け身の恐怖がこれでもかと伝わってくる。
  • 少数の航空部隊が掩護する。1940年代の旧式の戦闘機での空中戦。奥行のある立体的な映像にリアリティが高まる。
  • 英本土から民間の船舶が救出に向かう。船長の気概。
  • 海岸に追い詰められた兵士、空襲するドイツ軍、英本土から救出に向かう民間船。このシンプルな設定でこれだけの迫力、この設定だからこそつくれた緊迫感。
  • 作品情報 

【映】バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)

  • 「バベル」「21グラム」のイニャリトゥ作品。アカデミー作品賞、監督賞ほか(’15)。マイケル・キートン主演。エドワード・ノートンナオミ・ワッツ、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンなどが脇を固める。2014年、120分、米。
  • ヒーロー映画「バードマン」でかつて一世を風靡したリーガン。復活をかけブロードウェイ舞台に演出・脚本・主演で挑む。様々な問題、自信の喪失・迷いに直面しながら舞台初日を迎えるが・・・。
  • ドラムのインスト、脳裏に響く“バードマン”の悪意、映像は連続させ時間を変位させる表現、舞台と楽屋と屋外のシームレス感など、新しい演出がスタイルを創る。このスタイルが本作のオリジナリティと感じる。
  • 復活しキャリアを飾る、エゴにとらわれた主人公。生命の歴史における人類やエゴの小ささを娘に気づかされる。
  • 演者は演者の、批評家は批評家の言い分がある。「バビロン」同様、ここにもショービズ界への批判と内省がみられる。技術を磨きリスクをとって表現すること、それができていない現状への指摘。
  • 後半に進み、終幕の展開に不安を感じさせる。ただならぬ終末になるのではないかと思う一方、想定内のエンディングになってほしくないと感じながら観る。
  • 「かつての成功者のエゴと葛藤と再生」というストーリーはよそにおく。新たな様式美に本作の魅力。
  • 作品情報 

【映】リリーのすべて(トム・フーパー)