モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】大いなる遺産(C.ディケンズ、加賀山卓朗訳)

  • 海外古典(?)文学に手が伸びる春。なんとなくディケンズ(1812-1870)。原題は、Great Expectation。新潮文庫のstar classicsシリーズ。落着きある装丁、質感もよいし、文字も読みやすい。加賀山氏の翻訳、登場人物の人柄がしみじみはいりこんできていいね。
  • 両親を亡くし姉夫婦に育てられるピップ。姉や夫の親戚に虐げられる生活。鍛冶職人のジョーだけが味方。ある日、地元の富豪に呼ばれる。心を乱したミス・ハヴィシャムと美しい養女エステラと過ごす時間。ある日、出どころ不明の遺産が舞い込む。ロンドンに向かい、念願の紳士への一歩を踏み出す・・・。
  • この遺産はどこから、なんのためにきたのか。物語の展開にどうかかわってくるのか。冒頭示される子供時代の出来事はどこで合流するのか。エステラへの思慕はどう展開していくのか・・・。興味を惹きつけるストーリーを支えに、田舎の鍛冶職人見習いからロンドンの紳士になることを目指す、主人公の自意識の揺れが描かれる。
  • 登場人物がまたよい。義兄のジョー、幼馴染のビディの純朴で揺るがない温かさ、冷淡でタフで弱点のみつからない弁護士ジャガーズ、善良で友愛に満ちたハーバートとウェミック。ひとつひとつのセリフ、人物描写がページをめくらせる。さまざまなやさしさに守られながらピップの物語は進む。
  • 遺産の出どころが明らかになったところから物語は急展開する。活劇となり、さまざまな伏線が回収されていく。感情移入し、手に汗握る。
  • 映画(マイク・ニューウェル監督、2013)も観てみた。原作のプレッシャーに耐え切れなかった感なきにしもあらず。ハリウッド版もあるようだが、本作については、あえて原作にとどめておく、という選択肢もあったかなと思う。
  • 読書中、BGMがハーモナイズする。ジョーとビディとの別れ(リスト:愛の夢)、マグウィッチとの最後(ラフマニノフ:ピアノ協奏曲2)、エステラとの再会(ショパンエチュード)。感動が深まった偶然。全員、ロマン派というのも偶然。

“もしまたおれに会いたくなったら、今度は鍛冶場の窓から頭を突っこんで、鍛冶屋のジョーをみてくれな”

書籍情報