モグラ談

40代のリベラルアーツ

【映】ハート・ロッカー(キャスリン・ビグロー)

  • ふと戦場ものを観ようとウォッチリストから。キャスリン・ビグロー監督は本作でアカデミー賞女性初の監督賞。主演はMI6、ボーン・レガシージェレミー・レナーガイ・ピアースが登場するも冒頭限り。傭兵役のレイフ・ファインズが限られた出番だがいい味。2008年、131分、米。
  • 戦時下のバグダッドで爆弾処理班のリーダーに就いたジェームズ。経験豊富だが無謀な行動に班員は危険と不安にさらされていく・・・。
  • オープニングから緊張感。荒廃した市街地、街中に仕掛けられた爆弾。携帯から起爆する。周囲の市民がすべて犯人に見える。戦時下の爆弾処理という戦場ものとしてはユニークな設定。シーンも、路上、駐車場、建物内、砂漠など。まるでゲームのシチュエーション設定のよう。
  • 砂漠での狙撃戦は見もの。超遠距離での狙撃。アップとズームアウトの対比。独特の表現。
  • 日々強いられる緊張。仕事として対峙しないといけない極度のストレス。自ら狂わなければ維持できない。人はたやすく狂う。ならばその集合体の世界も容易に狂いうる。そんなことを感じる。
  • 現地のイラク人は人格があるものとして描かれていない。一方的な描写。
  • 任務終了後、家庭に帰る。スーパーのシリアル売り場で、自分の居場所ではないことに気づく主人公。平穏に耐えられない。
  • 争いの愚かさと、その中で麻痺し中毒となる個人。この麻痺や中毒性といった、国家間の軋轢とは異なる次元の動機が争いを支えているというメタファー。

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【映】さらば、愛の言葉よ(ジャン=リュック・ゴダール)

  • ふと思い出して観たのが逝去の数日前。偶然。2014年、69分、仏。
  • 断片的な映像を伴った詩の積層、いやパッチワークか。カラーとデジタルが新鮮さを感じさせるが、やはり変わらぬゴダール作品。観る者の脳波を麻痺させる瞬間を投げかけられ続ける。むしろ年とともに純度が増しているというか。
  • 抽象画を観て自分にも描けそうと誰かが言う。それに似た感覚。
  • 共産主義ゴダールに与えた影響。最期までに整理はつけられたのかなと思う。
  • 映画は自由だと改めて教えられる。ひねりだす解釈は脇に置きエンドロールを眺める。

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【映】ノマドランド(クロエ・ジャオ)

  • スリー・ビルボード」のフランシス・マクドーマンドに惹かれ最新作を。クロエ・ジャオ監督も気になっていた。アカデミー賞(2021)で作品、監督、主演女優賞の3部門を受賞。2020年、108分、米。
  • 夫を亡くし、職を失ったファーンはノマドとしてヴァンで暮らす生活を選ぶ。行く先々で仕事を探す。砂漠の寒さの中での厳しい生活。そこで流れる心情、さまざまな出会いと選択・・・。
  • 静かにはじまり進んでいく。my favorite。冒頭から良質のアメリカ映画の香りが漂ってくる。
  • 資本主義競争社会で追いやられた人々、拒否する人々が集う。製作当時はトランプ政権。ラストベルトの状況と重なる。
  • マクドーマンドが演じる硬質でかたくなで誇りある女性。ストーリーになにかダイナミックな展開があるわけではない。まさに流れていく心情を演じる。惹きつけられる。
  • タフにならねばならない、タフな生活に備えなければならない。帰属せずに拒絶せずに生きるということとはどういうことか。そんな考えが頭をよぎりながら観る。
  • 時折、報道番組のインタビューのようなショット。ドキュメンタリーのリアリティが持ち込まれる。
  • 厳しい砂漠、美しい夕日、雄大な西部の原風景が作品全体を包む。厳しくも温かい大地の力が厳しい現実からの解放と内省のひとときを与える。
  • ラストでかつて夫と暮らした家に帰る。お気に入りの窓からの風景を眺める。気持ちに整理をつけ、再びヴァンに向かう。

“No, I’m not homeless, I’m just houseless. Not the same thing, right?”

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【映】神様メール(ジャコ・バン・ドルマル)

  • “神は実在し、ブリュッセルに住んでいる”という設定。「トト・ザ・ヒーロー」「ミスター・ノーバディ」のジャコ・バン・ドルマル監督作品。ファンタジックな世界観。2015年、115分、ベルギー・仏・ルクセンブルク合作。
  • 神は初めにブリュッセルを創り、家族とともにそこに住まう。部屋にこもってPCで世界を操作する神。世の不幸や出来事はすべて神のきまぐれ。それに気づいた娘のエア、誤って全人類に余命をメールで一斉通知。余命を知った人々のそれぞれの選択・・・。
  • シェルブールの雨傘」のカトリーヌ・ドヌーヴが裕福だが満たされない婦人役。重役の旦那を捨て、ゴリラを選ぶ。隠し切れない存在感。
  • フィーチャーされる6人の使徒。その多くは限られた時間を、恋し愛に捧げる選択をとる。お国柄。
  • 余命を宣告されたそれぞれの選択、というユニークな設定。いい加減で怠惰で俗悪なもの(神)に世界は支配されている、という暗喩。カトリックの国、ベルギー・フランスの作品。

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【映】グリーンブック(ピーター・ファレリー)

  • とてもよかった!!“最強のふたり”(11)で思い出して視聴。ファレリー監督は“メリーに首ったけ”(98)などのラブコメジム・キャリーのコメディなどで実績。本作でアカデミー賞(19)作品賞、脚本賞助演男優賞。2018年、130分、米。
  • 人種差別が根強く残る1960年代前半。黒人の名ピアニストの南部ツアーに運転手兼用心棒として仕事を引き受けることにしたイタリア人。行く先々で偏見・差別にぶつかりながら、習慣も性格もそれまでの人生もまったく異なる二人が絆を深めていくが・・・。inspired by a true story.
  • ピアニストのシャーリー役のマハーシャラ・アリは、“ムーンライト”(16)に続いて助演男優賞。用心棒のトニー役のビゴ・モーテンセン、どこかで観たなと思ったら“ヒストリー・オブ・バイオレンス”(05)の主演。ハーベイ・カイテルに通じる芯のあるブルックリン親父っぷりがこのうえなくgood!
  • 様々な差別。人種、貧困、ゲイ。わかっていても次から次におしよせる。隙間なくはいりこんでくる。そこでどう振る舞うか。
  • 最高のラスト。観ている人は、ほほ笑みとともに流れる涙を頬に感じるはず。

“Because genius is not enough, it takes the courage to change people’s heart.”

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【英】最強のふたり(エリック・トレダノ、オリビエ・ナカシュ)

  • タイトルとジャケットの印象がなんかひっかかってウォッチリストに保蔵のままになっていた一作。いよいよ拝見。イメージと違った。とても素晴らしい作品! この後、ハリウッドでリメイク。2011年、113分、仏。
  • 事故で首から下に麻痺の障害を持つ大富豪のフィリップと、失業手当の給付要件を満たすため、形だけの介護の求人面接に訪れたドリス。価値観も生活も階層もまったく異なる二人が出会い、お互いに救い救われあう存在として絆を深めていくが・・・。Inspired by a true story。
  • 決して礼儀正しいとはいえないドリス。路上にたむろしてマリファナをまわす。やりきれない生活。でも、隠しきれないイイ奴オーラがにじみ出る。ボビー・オロゴンと同じ塩基配列もっているのじゃないかな、などとぼんやり。
  • 主演のフランソワ・クリュゼは初見。デ・ニーロ、トム・クルーズ、ダスティ・ホフマンの笑顔をブレンドした紳士。魅力的。出番は少ないが、ドリスの母親役のサリマタ・カマテも印象に残る。
  • いちいちセリフが面白い。笑える、笑みに満たされる。字幕もよいのだと思う。ところで、字幕の方の名前、あまり表にでない気が。。吹き替えの声優さんはでるのに。
  • さまざまな音楽。オープニングはSeptember(Earth,Wind & Fire)、かと思えばタイトルロールではショパンノクターン1。その後、ビバルディあり、ブルースありと、聞き覚えのある名曲。
  • 英題は”Intouchable”。 “手を触れてはならない 、禁制の、手の届かない、無敵の”といった意味のようだが、交わることのなかった二人、という意味ならわかるが、“無敵の”から翻案されたようなこの邦題どうなの?
  • ラストの粋なはからい。それに気づいて笑みに満たされるフィリップ。この笑顔!
  • エンドロールでtrue storyでの二人を写真で投影。数枚の写真だが二人の関係が伝わるかのよう。

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【映】パンズ・ラビリンス(ギレルモ・デル・トロ)

  • シェイプ・オブ・ウォーター”(17)に続きデル・トロ作品。アカデミー賞(07)撮影賞、美術賞、メイクアップ賞。題名の“パン”はギリシャ神話の牧羊神。彼が少女を異界に導く。2006年、119分、スペイン・メキシコ合作。
  • スペイン内戦下の1944年。山中に立てこもるレジスタンス掃討軍の大尉のもとに呼び寄せられた妻と娘。娘は異世界の姫のうつりかわり。パンの導きで異界に戻るための試練を課される・・・。
  • 意匠と衣装に力を入れている。全体的に暗めの映像だが、しっかりと美しさの主張が伝わってくる。クリーチャーの造形も迫力がある。
  • シェイプ・オブ・ウォーター”同様、大人のメルヘン。いくつかのシーンを除けば子どもも観られると思いつつ、それでもこれらのシーンはこの世界観を創りあげるために必要なものと思いなおす。
  • 禁断の果実を口にする少女。誘惑に駆られて、自我を支配される演技が印象に残る。
  • レジスタンスへの拷問シーン、残酷。痛い表現はスペイン映画の骨頂のひとつか。
  • 前半からいろいろな期待がプロットされていくが、大きく展開しきれないままラスト、という印象なきにしもあらず。
  • 本作の構想は、“オズの魔法使いオスカー・ワイルドアンデルセングリム童話不思議の国のアリスなどのおとぎ話や児童文学から引用している(wiki)“とのこと。たしかに予定調和のハッピーエンドにはない、昔話の悲劇がここにはある。

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