モグラ談

40代のリベラルアーツ

【映】スポットライト 世紀のスクープ(トム・マッカーシー)

  • 「ミート・ザ・ペアレント」(00)に俳優として出演していたマッカーシー監督。本作でアカデミー作品賞。2015年、128分、米。
  • 神父による性的児童虐待と、これを看過してきたカトリック教会という巨大権力に、職業生命を賭して挑む記者たちを描く。骨太の社会派サスペンスであり、職業人たちの血気と矜持に満ちる熱いドラマ。
  • 取材チームのデスクにマイケル・キートン、超久しぶり。助演のレイチェル・マクアダムス、「きみに読む物語」「シャーロック・ホームズ」「「アバウトタイム」などで観た顔。上司役のリーブ・シュレイバー、出番は限られたが、無骨ながら自らの役割を果たす姿が印象に残る。
  • 被害者へのインタビューシーンは、さながらドキュメンタリーの切実さと緊迫感。
  • 権力のスキャンダルは記者にとっても新聞社にとっても大きなリスク。現場と経営、それぞれ矜持を持ち、相手を信頼し、託していく。信念でつながっている。熱くなる。
  • スリリングな展開。観ていて血がたぎってくる。こみあげてくる。
  • Based on true story。249人の聖職者が告発され、被害者推定1,000人。
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【映】妻への家路(チャン・イーモウ)

  • 小説「三体」をきっかけに中国文革・文芸系へ。「活きる」「サンザシの樹の下で」に続く、文革題材のチャン・イーモウ作品。コン・リーとのコンビ。2014年、110分、中国。
  • 文革時に娘の密告で収監されるルー。愛する妻はショックと心労で記憶障害となり、再会の夫を認識できない。ルーは、記憶の回復を期待し、隣人として接し続けるが・・・。
  • 肉親との関係も清算させる文革という歴史。しかし、たった50年ばかり前の話。政治的立場がすべて。この設定の深刻さを、想像すら及ばない異国のものにも切実に伝えてくる。
  • そんな中でも一途に夫を愛するコン・リー。常に不安げな表情を宿す。記憶の不確かさを、眉と口角で表す。
  • 文革は主題というより舞台設定。夫婦愛と認知症を描いた「アウェイ・フロム・ハー」を想起。
  • 質素な室内が印象に残る。激動の時代背景とは対照的に、しみじみとしたとても静かな映画。
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【映】地球が静止する日(ローランド・エメリッヒ)

  • いま生きている幸せをかみしめたく地球滅亡系の映画連投3本目。1951年の同名作品を一新したリメイク。キアヌ・リーヴスジェニファー・コネリー共演。1950年代といえば、クラーク、アシモフハインラインらのSF作家が活躍したSF隆盛期だな、などと思い観てみたが。。2008年、106分、米。
  • ある日、未知の球体が地球に衝突。現れ出た使者は、地球を救うために指導者との対話を望むが人類(アメリカ)はこれを拒否。地球を守るために決断を下す使者に、人類を救うために説得をする科学者・・・。
  • 豪華B級映画。おそらく原作の魅力が発揮されたのは50年代にSFがまとっていた力によるところだったのかな、などと思いながら観る。
  • 行き過ぎた人類に戒めをくだす。どこかで観たなと思いながら、作品を思い出せずに時間が過ぎる。あ、映画でなくて旧約聖書だ、と気づくと同時に作中でも示される。
  • 政治家と軍人は愚かで、科学者は理性に満ちる、という構図。国防長官にキャシー・ベイツ。彼女の良さがひきだせる役ではないかなと思う。ちょい役だが大佐役に「プリズンブレイク」でティバッグ役のロバート・ネッパー。懐かしい。
  • 地球崩壊・人類滅亡系のパターンでいうと、危機が迫りくる中、英雄が地球を救う、のケース。
  • なにもない毎日に感謝。
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【映】ムーンフォール(ローランド・エメリッヒ)

  • いま生きている幸せをかみしめたく地球滅亡系の映画連投2本目。「インデペンデンス・デイ」「デイ・アフター・トゥモロー」のローランド・エメリッヒ監督×ハル・ベリーパトリック・ウィルソンということで観てみたが。。
  • 原因不明の力で軌道を外れた月が地球に衝突することが判明。NASA副部長のハル・ベリーと元宇宙飛行士のパトリック・ウィルソンと自称天文学博士の3名が地球を救うために立ち向かう・・・
  • アマプラ配信作。常にどこかライトなドラマ感が漂う。なにかプロトコルにのって制作したらこうなった、という感じ。なにも考えずに見る。特撮は先端。豪華B級作品。
  • 視聴確保を狙ってか、脈絡もなく中国が登場。ハル・ベリー宅で働く留学生シッター、供与される衛星。
  • 資本と回収のための仕掛けという力学が映画界を塗りつぶしていくのだろうかな、などと想像。一方で、良質の映画も生まれてくる。なにごとも二極化していく世界。
  • 地球崩壊・人類滅亡系のパターンでいうと、危機が迫りくる中、英雄が地球を救う、のケース。
  • なにもない毎日に感謝。
  • 作品情報 

【映】グリーンランド 地球最後の2日間(リック・ローマン・ウォー)

  • いま生きている幸せをかみしめたく地球滅亡系の映画を何作か。「300」でヒットしたジェラルド・バドラー主演。2020年、119分、米。
  • 彗星の破片が隕石となり地球に衝突。さらなる巨大隕石による世界崩壊まで残り48時間に迫る中、一部の市民がシェルターへの避難を許される。選ばれたギャリティは、妻と息子を連れてシェルターに向かうが・・・。
  • 地球崩壊・人類滅亡系のいくつかのパターン。危機(隕石、ウイルス)がせまりくる状況か、訪れた後か、主役は危機を救う英雄か家族を守る親か。本作は、危機が迫りくる中、家族を守る親の姿が描かれるパターン。主役のバドラーの、善良とエゴとマッチョという人物像が本作の特徴かな、などと思いながら観る。
  • トム・クルーズ主演の「宇宙戦争」(2005)も家族を守る親パターンだが、当時賛否あった侵略の残酷シーン描写は斬新だったのかな、やはりスピルバーグはすごいな、などといった思いが浮かぶ。
  • 最初の衝突のシーンの演出は印象に残る。海に落ちると報道され自宅のテレビで様子を見る。ちょっとした観覧気分。衝突時刻におちてこない。その後、爆風。実は本土に衝突していた。そこから突然のパニック。
  • 義父役のスコット・グレン、名脇役。強き良きアメリカの父親像を体現。
  • なにもない毎日に感謝。
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【映】ザ・マスター(ポール・トーマス・アンダーソン)

  • ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007)のポール・トーマス・アンダーソン監督作品。ホアキン・フェニックスフィリップ・シーモア・ホフマン共演。ベネチア銀獅子(監督)賞、男優賞。2012年、138分、米。
  • 第二次大戦でトラウマを抱えた帰還兵フレディ・クエル。アルコール依存から抜けきれない中、宗教指導者ドッドに出会う。ドッドに魅入られたクエルは行動をともにしていくが・・・。
  • ホアキン・フェニックスの演技に惹きつけられる。全身全霊で役に乗り移っているかのよう。不安定な狂気と破滅志向が常に漂ってくる。前傾の姿勢、力がこもる眼球、心酔した表情。
  • 数々の作品でお見受けしたホフマン。カポーティで複数の男優賞を受賞。本作でも知性と野生のバランスを絶妙に魅せる。赤味がかった肌が高血圧を感じさせる。本作では肉体を超えて引き継がれる記憶にさかのぼり治癒する能力を示す。集合的意識を想起。
  • 138分の作品。なにかのうねりがあるわけでもないが、あっという間に時間がたっていく。困難を抱えた一人の男の人生。ただそれだけ、ともいえる。もっと観ていたいとも思わせるし、退屈してしまうかもしれないとも一方で思う。
  • フラッシュバックのように挿入される美しい海原。スクリューが描く白波も美しい。
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【音】日本フィル とっておきアフタヌーンvol.20:太田弦(2022/09/27)

  • サントリーホールのほどよい企画。この回は、モーツアルトのピアノ協奏曲第20番とベートーヴェン交響曲5番。指揮は若手の太田弦さん。ピアノは仲道郁代さん。
  • ピアノ協奏曲第20番、生音で聞いてみたかった。部屋で聞くのとはやはり大きく違う。なめらかで、時折とまどいをみせる旋律。第二楽章はいろいろな演奏がありえると想像する。回想、幻想、希望につかのま身をゆだねるように聴き入る。第三楽章は対比して力づくよく切り裂いていく。モーツァルトは浄化してくれる。オペラが持つ自由で縦横無尽な展開が協奏曲にもみえてくる。
  • 仲道さんの演奏、一音一音の中に言葉、情景、情感が同時に存在する。万華鏡のようにみせてくれる。“一音一音、語るがごとく演奏したい”という想いが伝わる。生まれて瞬時に消えていく、つかまえられない“音”とともにする、演奏という素晴らしさ。
  • モーツァルトが作曲したのは、表現できるオクターヴ数が限られた時代のピアノ。当時の曲をいまのピアノでどう表現するかというのがチャレンジとのこと。なるほど。
  • 登場時の観客の拍手の響きで、そのホールで自分の音がどのように伝わっているか感じられるとのこと。サントリーホールはふわっと包まれるような音響とのこと。なるほど。
  • 太田さんの指揮、小気味よい。小さな体をゆすりながら、テンポよく運んでいく。手のひらをなめらかに、さざ波のように流す。
  • 二曲目は運命。低音で抑制的にはじまる。大音量のホルンが印象的。徐々に力強く全体をもちあげていく。
  • 第二楽章は雄大な風景に出会う旅路を想像させる。自然に囲まれながら、時折内省にひたる道程を感じさせる。第三楽章で世界は厳しさをみせつけてくる。力強く立ち向かっていく。長くて暗い道が続く。光明が見える。たちあがり一気にかけあがる。そんな情景が浮かぶ。後半からエンディングに向けていっきに仕上がってきた。すばらしい演奏。
  • アンコールはベートーヴェン「12のドイツ舞曲」第二番。

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