モグラ談

40代のリベラルアーツ

【映】アリス・イン・ワンダーランド(ティム・バートン)

  • 原作を読みなおし、複数の絵本を読み比べ、映画も手に取ったアリスウィークエンド。ティム・バートン監督、アリス役は(ちょっとグウィネス・パルトロウ似の?)ミア・ワシコウスカ。ジョニーデップ、アン・ハサウェイ共演。2010年、109分、米。ディズニー作品。
  • 不思議の国の・・と鏡の国の・・の翻案。原作のアリスは7,8歳だが、本作では19歳。子供のころにみた夢の世界は続いており、そこに自覚せず再び訪れる、という設定。赤の女王が支配する独裁的な世界。白の女王とともに戦いに挑む・・・。
  • 原作に忠実かといえばそうではない。いくつかのシーン、モチーフは踏襲だが、基本は善と悪の戦いというディズニー二項対立勧善懲悪物語。運命は自分で拓くもの、という教訓に満ちる。原作は、子どもの感性を刺激する謎解き、言葉遊び、ナンセンスに満ち溢れていた。映像化が難しい世界なのかなと思う。チェシャ猫は怪しい感じがでていた。
  • 映像全般に原作イメージにない新鮮さを感じる。原作に風景描写が少なかったため、風景を映像で示されることで生じた違和感と気づく。その意味でティム・バートンの多彩は新鮮。読書時は全体的に枯れた世界を描いていた。映像の力。
  • アリスの豊かな想像力は、イノベーターの資質として事業家という俗世に回収される。すこし残念。
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【映】翔んで埼玉(武内英樹)

  • 名作がこんなところに。「のだめ」「テルマエ・ロマエ」シリーズの武内英樹監督。二階堂ふみGACKT伊勢谷友介ブラザートム麻生久美子加藤諒と、どこかふざけている面々が彩る。2019年、107分。
  • 東京に対し圧倒的に劣位に置かれる埼玉。東京に行くのに手形が必要。これを撤廃すべく送り込まれる覆面エリート。惚れてしまう都知事の息子。同様に千葉の解放戦線からも刺客が・・・。
  • “こういう差別を娯楽のベールに包んで扱うこと自体が格差の土壌を醸成する”などとは一切考えず観る。笑える。原作は、「パタリロ!」の魔夜峰央による40年前の作品。40年前から埼玉はこんな扱い。。群馬、茨城にいたっては僻地こえて原始時代扱い。訴訟対策しっかりやったのかな、などとぼんやり。
  • しらこばと”の草加せんべいで踏み絵、埼玉人を見分けるセンサー、埼玉と言うと口が埼玉になる、海がないことに強烈な劣等感、なので海につられて“サイタマホイホイ”で捕獲される、医者の代わりに祈祷師、小型春日部蚊がもたらすサイタマリアというウイルス、九十九里浜で穴という穴に落花生を詰め込まれた状態で地引網強制労働に従事させられる捕囚者多数・・・。
  • GACKTと伊勢谷のキスシーン、魔夜峰央の世界観がよく描けている。
  • ちょい役だが加藤諒がコミックタッチにベストマッチ。「パタリロ!」や「おぼっちゃまくん」などの劇場版に出演している様子すら浮かぶ。
  • MI6、スターウォーズ、インディジョーンズ、ハリウッドの大作をちょくちょくぱくる。
  • エンドロールは“はなわ”の曲。春日部出身を盾にディスりまくる。これがまた笑える。

さいたま市はひらがな、さいたま市はひらながー、さいたま市はひらがなー、さいたま市はひらがなー。なんでだー?なんでだー?なんでひらがななんですかー?ばかだからかな?ばかだから漢字が全然読めないのかな?”

【映】薔薇の名前(ジャン=ジャック・アノー)

  • 「愛人ラマン」「セブン・イヤーズ・イン・チベット」のジャン=ジャック・アノー監督。ショーン・コネリー主演、子役のクリスチャン・スレーターは、どこかで観たどこかで観たと思いながら思い出せなかったが、「トゥルー・ロマンス」の彼だった。1986年、132分、仏・伊・西独。
  • 僧侶が若き弟子時代の“おぞましき出来事”を回想。奇怪な死が続く14世紀初頭の北イタリアの僧院。おとずれた他宗派の元審問官(コネリー)とその弟子(スレーター)が解決に挑むが・・・。
  • 脚本がまずあり、それに忠実に撮影を積み重ねていったらこうなるのかな、と感じる。ストーリーの起承転結に重きを置いた撮影というか。なので、面白いし娯楽作品として安心だが、途中で退屈もある。平積みの小説読んでいて途中で休憩したくなるような感覚。
  • ただし、骨太の骨格は、さすが名作が多々生まれたとされる80年代の作品。製作年の1986年といえば、国内で「キネマの天地」がはずれ、「子猫物語」がヒットし、ハリウッドでは「トップガン」「クロコダイル・ダンディー」「プラトーン」が興行収入をあげ、チェルノブイリで事故が起き、メキシコでマラドーナが神の手をだした年。
  • 黙示録に暗示された死、衝撃的な死に方に「セブン」の原型をみる。
  • 14世紀の異端審問を想像する。正義は絶対のものとして手を伸ばせばそこにあるものではない。命をかけた論争で勝ち得、暗に明に勝者が敗者に強制してきた歴史を想起。
  • 先人の叡智は書物に結集される。いまでは想像もつかないほどの書物、そして情報の価値に思いを馳せる。
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【映】MAMA(アンドレス・ムシェッティ)

  • デル・トロ製作総指揮、「IT “それ”が見えたら終わり」のアンドレス・ムシェッティ監督ハリウッドデビュー作。2013年、100分、スペイン・カナダ。
  • 破産し、共同経営者と妻を殺害し、娘二人をつれて失踪した兄を探すルーカス。5年後、山小屋で変わり果てた娘たちが見つかる。パートナーとともに二人を迎え入れることになったルーカスだが・・・。
  • タイトルロールまでのオープニングの密度の高さ。その先の期待を高める。
  • 怨念が時空を超えてつきまとう。怨念が生じたシーンが視覚的に転移してくる。リングの世界。
  • 恐怖のピークが後半にくる。目を覆う。ホラーとしての映像描写はなかなか。でも、悪霊と会話が成立した時点でこの恐怖が霧散してしまう。この先につながるファンタジー的展開に必要だったのだろうが、怖さは半減。はやり不可知の世界、人間世界では理解できない、懇願しても許されない論理の世界に恐怖は宿る。サムライミの「スペル」のように。
  • ママとかイットとかアスとか端的に怖い。。全体的に心臓に悪いが、目が離せない。つまりホラーとして良作。ムシエッティ監督は「進撃の巨人」のリメイクが決まっているという。期待。
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【映】マーシュランド(アルベルト・ロドリゲス)

  • いつもと違った雰囲気でもと思いスペイン映画から。田舎町を舞台にしたクライムサスペンス。ゴヤ賞では作品賞、監督賞など10部門受賞。2014年、105分、スペイン。
  • フランコ独裁政権の爪痕のこるアンダルシア地方の田舎町。町の祭りにあわせて起きる少女連続殺人事件にマドリードから2名の刑事が派遣される。田舎町に潜む様々な悪、秘密警察としての過去などが錯綜し・・・。
  • 観たいと思って探してもなかなかこれっ!と見つけにくい(良質だが普通の)サスペンス感がよい!などと思いながら観たが、ゴヤ賞受賞作とのこと。あとから知る。
  • オープニングの上空からの映像。アンダルシア地方の美しい農村風景がタペストリーのように長尺で示される。絵画のようだなと思う。
  • クライムサスペンスとして、ストーリーもプロットも特別なものはない。二人の刑事の個性、関係描写が独特。必ずしも対称ではなく、どちらかの主観を主軸に据えるわけでもなく、それぞれ個性を持ちながら一方でとらえどころがない。
  • サスペンスを基調とした二人のドラマ、としての魅力を感じながら観る。「刑事ジョンブック」を観たときと同じようなドーパミン感。
  • フランコ独裁政権の残り香、その時代に秘密警察として市民を傷つけてきた刑事が正義を追及するという構図。この映画が伝える通奏は他国の人に感じられないものがあるのだろう。
  • スペイン映画、アマプラで観られる名作限られるのが残念。
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【美】生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎(アーティゾン美術館)

  • 1882年に久留米でともに生を受けた二人。日本の洋画が成熟に向かう中で、それぞれ独自の作風を探求。28歳で夭折した青木、40歳前にしてパリ留学を経て緩やかに画風を変化させていった坂本。同郷の二人の回顧展。
  • 青木は、記紀万葉などの日本の神話から着想を得た。イザナギイザナミの別れとなった“黄泉比良坂”は、当時、“奇なる画題”と評された。独自の世界。手前に配置された青緑の混沌と出口に見える印象派のような黄色の明るさ。緑の闇と同化する裸婦。気が流転している。観る者を撃つ想像の世界。記紀神話からの着想の可能性を感じる。
  • 青木の代表作、“海の幸”。房州布良(めら)海岸に坂本らと写生旅行に訪れた際、大漁でにぎわう浜辺の様子を坂本から聞き、想像で一気に描きあげたという。大きなサメを複数つるし、10名ほどの漁師が浜辺を歩く。隊列を組み行進するような全体から意志的、あるいは儀礼的なものを感じる。力強く描かれた漁師の輪郭が縦の軸を、手に持つ銛と行進の流れが横の軸を作る。青木のイメージを創る力に圧倒される。青木曰、“人間の歴史の破片が埋められて居たに違いない”。
  • “わだつみのいろの宮”は、失くしてしまった兄の釣り針を探しに来た山幸宮が豊玉姫と海で出会ったシーン。縦に長い構図はラファエル前派の影響、色づかいはモローから感化されたとのこと。
  • 絶筆となった“朝日”には、なにか神々しさを感じないわけにはいかない。
  • 一方の坂本。青木に誘われ上京。山村の生活、風景に“らしさ”を観る。土や草いきれの匂い、海風がもたらす湿り気ある温暖などが伝わってくるよう。人々やその生活をじっくり観る姿を想起。
  • “町裏”で描かれた運夫。薪を束ねた紐をつかむ指先、こもる力が伝わってくる写実性。想う青木、見つめる坂本、といったイメージが浮かぶ。
  • パリ留学で色彩の明るさを身につけた坂本。帰国後は馬を題材とした作品を多数。有名な“放牧三馬”は、中央の白馬がペガサスのような高貴な佇まい。三馬の構成にしっかりとした落着き。空の水色、瞳のエメラルドグリーンに、かつての農村風景の写実とは異なる神話性を感じる。
  • 留学前は武蔵野の牛を好んで描いた坂本。“牛は、自然の中に自然のままでおり、動物の中で一番人間を感じません”とのこと。
  • アーティゾン美術館はじめての訪館。都心の美術館らしいシックと落着きの併存。絵との距離も近い。いい感じ。

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【映】クロッシング(アントワン・フークア)

  • イーサン・ホークwithトレーニングデイのアントワン・フークア監督。間違いない組み合わせなのにまだみてなかった!2008年、132分、米。
  • 悪徳刑事のイーサン・ホーク、うだつのあがらない引退間近の刑事にリチャード・ギア、おとり捜査官としてマフィアに潜入するドン・チードル。それぞれの困難、生活、軋轢が一気にラストで合流していく・・・。
  • 家族のために金が必要なイーサン演じるサル。神に求めるのは許しではなく助け。虚栄心にまみれた切羽詰まった悪徳刑事役といえばイーサンの右にでるものなし。
  • 犯罪都市、人種差別、悪徳刑事、複数の物語の交差から、「クラッシュ」を想起。たしか、クラッシュにもドン・チードル出演だったか。
  • 保身のために自らの論理を正当化する組織と個人。常態化し自覚もない。ここに暴力が加わると地獄ができあがる。
  • 皆が怒りを抱えている。観ていて呼吸が浅くなっていることに気づく。いまいる世界のありがたさをしみじみ感じる。
  • 上空からの犯罪多発地区のショット。整然と並ぶ公営団地群。そこで繰り広げられる暴力の日常。
  • 背後から撃たれるシーン。トレーニングデイを想起。同じ衝撃。
  • なにかが終わるわけでも、結論づくわけでもないラスト。

作品情報