モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】田辺聖子の小倉百人一首

書籍情報

【概要】

そろそろ季節なので再読。

著者は芥川賞をはじめ数々の受賞歴をもつ女流作家。源氏物語の翻案など、古典文学の現代語訳・翻案多数。本年6月に逝去。NHK「あの人に会いたい」を見て人生にも惹かれた。

本書は百首を各4-5頁で順番に読み解く。読み解くといっても学術書ではなく、現代語訳をのせたうえで、歌の解説、選ばれた経緯、歌の背景にある時代・人間模様などをわかりやすく、ときおり“与太郎青年”との漫談を交え楽しく読ませる一冊。著者の人柄がしのばれる。

 

【雑感】

  • 季節は秋、テーマは恋の歌が多い。会ったこともない相手に思いを馳せ、有明の月に“あはれ”を感じる生き方は、悪くない、というかむしろ憧憬(ごく限られた貴族・役人ができた生き方だが)。
  • 鎌倉時代勅撰和歌集からの選歌もあるが、中心は平安時代のもの。平安の貴族社会が作った感性・美意識はどのように現在に受け継がれているのだろうか。
  • 多くの人が生活のための労働や貧困から解放される世界が、機械による労働の代替やベーシックインカムの議論から想像されることがある。その世界では、人は恋の歌を詠むのか、利便の受動に走るのか。
  • 好きな一首。

   ”山がはに 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり”(春道列樹

 

【もう1冊】

  • 日本人の美意識ドナルド・キーン,金関寿夫訳,1999(初版),中公文庫)⇨日本文化・日本文学研究と海外への紹介で大きな功績を果たした著者の日本論。平安の女性的感性から、文学、演劇、日清戦争と文化など、独創的な切り口で論述。
  • 日本人の心の歴史唐木順三,1993,ちくま学芸文庫)⇨季節への日本人の感性を文学や思想から探り、日本人独特の歴史を究明。日本人は総括的な仕事には不向きだが、局部については精緻で豊かな観察をし、些事を大きな背景で感じ取れる際立って優れた感受性をもつ民族とのこと。奈良平安の歌集・文学は上巻で扱われる。
  • まんが百人一首大辞典(吉海直人監修,2017,西東社)⇨小学生向けのまんが学習シリーズだが、なかなかよい。なにげなく憶えていた歌にも、知らなかった意味がたくさん含まれていることに気づく。オールカラーで絵もきれい。