モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】精神科医が教える聴く技術

書籍情報

【概要】

傾聴に興味を持ち読了。

著者の高橋和巳氏(1953-)は精神科医。カウンセラーの教育(スーパービジョン)も行っている。

本著は、カウンセリングにおける「聴く技術」を、黙って聴く、賛成して聴く、感情を聴く、葛藤を聴くの4つのステップ別にわかりやすく解説。臨場感のある具体的なケースに加え、考え方もわかりやすく示されており説得力がある。

 

【ポイント】

  • イヤイヤ期の“嫌だ、やらない”は自己主張を通じて自我を拡大し、思春期の“放っておいてよ”は精神的な自立につながる。精神療法やカウンセリングは大人にとってのこれらの言葉(自分自身を表現する“しっくりくる”言葉)を見つけていく作業。言葉が見つかれば頭に広がり、新しい言葉が積み重なり、言語全体を統率する文法(シンタックス)も変わり、最後にはその人の生き方(人生観)が変わる。新しい言葉や文脈をいくつ見つけられるかが、その人の生き方を変える速度と深さを変える。そして、この語りを支えるのが“聴く力”である。
  • 話を聞くと、聞き手に不全感がたまる。「聞き上手」は、合いの手をはさみながら、自分も不全感をためないようにしている。“聴く技術”とはカウンセラーが不全感をためないで、クライアントの話をだまって聴き続けるための技術。クライアントが自由に話せて、自己組織化する力を引き出す技術。
  • 脳の自己組織化とは、人が自由に語ることで心が深いレベル(自分では気が付かないエピソードや言葉が互いにつながっている無意識の世界)に降りていき、語ることでこれらが整理・組織化され、最後には意識に上ってきて解決を準備すること。
  • 聴く技術は、黙って聴く、賛成して聴く、感情を聴く、葛藤を聴く、の4ステップからなる。最初の“黙って聴く”がもっとも重要だがもっとも難しい(カウンセリング時間の7割は黙って聴くイメージ)。
  • 【黙って聴く】
    • クライアントが話し始めたら、①絶対に口を挟まない、②絶対に質問しない、③絶対に助言をしない、で話し終わるまでただ静かに聴くことが大切。また、①支持・承認の口を挟まない、②復唱・繰り返し・要約をしない、③明確化しない(違う言葉に置換・要約しない)、④聴き取れないことがあっても聞き返さない、が4禁。
    • 言葉を挟むと、質疑応答になり、クライアントはカウンセラーの質問や以降に沿った内容に限定して自分を語ることになる。
    • カウンセリングでは決して助言をしてはいけない。助言は心の変化のきっかけを奪う。
  • 【賛成して聴く】
    • “賛成して聴く”ためには、聞き手は、賛成(よくわかる、そうだよね)と反対(賛成できないよ、だらしない)の両方を理解・自覚できていることが大切。
    • 賛成して聴けない時の対処療法は、“自分は傾聴できないだめなカウンセラーだなぁ”と自覚しながらクライアントの話を聴くこと。根本療法は、“悩みの本質を分類しながら聴く”こと。
    • 人の悩みは大きく、①人が怖い、②自分を責める、③人とうまく付き合えない、④死ぬのが恐い、に分類できる。それぞれ、悩みが深刻化した時の病気や問題が異なる(①愛着障害、ひきこもり、②成人期うつ病パニック障害、③子どもの不登校、夫婦対立、④PTSD 等)。深さの順は、④>①>②>③(浅い悩みほど賛成して聴くことが難しい)。
    • “賛成”して聴く、と“応援”して聴くは異なる。応援されると悩みを話しにくくなる。賛成して聴くとは、悩みに賛成し、悩みの中にあるいろんな方向の心の動きをそのまま認めて聴くこと。
  • 【感情を聴く】
    • 自由に語り始められるとクライアントの感情が“きれいに流れる”(表現される言葉と感情に矛盾がなく、感情の前後関係の意味の整合があり途切れない)。
    • クライアントの感情の流れを聴き、同時にそれに呼応しているカウンセラー自身の感情の流れを聴けることが極意。
    • 語られる感情には6つの階層がある。すなわち、①不安と頑張り、②抑うつ(頑張れない自分を責める)、③怒り(そんな自分に怒り)、④恐怖(今まで信じてきたものを手放すことに対して)、⑤悲しみと諦め(諦観の中で古い生き方を捨て)、⑥喜び。
  • 【葛藤を聴く】
    • 葛藤とは、こうすべきであるという規範と、それに従えない現実の感情のぶつかり合いの中で、何とか規範を貫こうとするときに生じる苦しみ。人生を織物に例えると、規範は縦糸(頑丈な構造にし人生を継続させる基盤)で感情は横糸(きれいな模様となる人生の楽しみ・潤い)といえ、人は一生のうちに何度か縦糸を入れ替える(あるいは継ぎ足す)必要がある。
    • 実生活で、規範と感情の間で揺れ動きながら、その往復運動が頻繁になり、最終的には重なり合う(同時に存在すると認識される(まぁいっかと思える))ことで葛藤が崩壊する。
  • 聴く技術は心を知る技術であり、自分を知る技術である。“自分を聴く”技術は、①結論を出さずに黙って自分を聴く(あぁ、いま私は怒っているのだな、と思う)、②何か理由があるはずだと、賛成して自分を聴く(賛成するもう一人の自分をたてる)、③言葉が出てくる前の感情を聴く、④解決がないと思って自分の葛藤を聴く、であり、この過程を通じ、自己理解を超えて自己受容に達する。
  • 心の動きはその深いレベルまで見ていけば論理的であり、したがって科学的である。

 

【雑感】

  • カウンセリングや傾聴について、なんとなくわかっていたつもりでわかっていなかった考え方や技法を豊富なケースを交え端的に示してくれた一冊。
  • “その人にとってその時に必要な言葉を見つけることが、頭の中の文法を変容させ(自己組織化)、生き方(人生観)を変えていく”、というロジックにカウンセリングの意義を見つけた。
  • カウンセリングは、話を聴くことを通じて自己組織化を促すことが目的。そのため、具体的な助言を行うコンサルティングとは異なる。違いをこれまで意識していなかったが、目的によりコミュニケーションの技法を意識的に変える必要性を理解。
  • “コミニュケーションスキル”と漠然と用いられるが、具体的な技法の種類を識別して用いる必要がある。
  • 理解にとどめず技法を体得することに意義がある分野。日常の実践を意識したい。

 

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