モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】超入門!現代文学理論講座(亀井秀雄監修、蓼沼正美著)

  • 文学理論・文芸批評の本を乱読したが、閉じた世界の言葉で書かれているものが多く、どうもすっきりしない。そんな中で見つけた中高生向けと思われる一冊。平易な語り口、ほどよい絞り込み、ちょうどよい。
  • 著者は高校国語教諭を経て高専教授。文学研究で有名な亀井秀雄氏が監修。
  • 主人公の立場に寄り添った記述が(学校現場でしばしば)期待される読書感想文、作品は作家に支配されているという前提に立つ文学研究≒作家研究という考え方、とは異なる“読み”を紹介( “作者の死” ロラン・バルト)。
  • ロシア・フォルマリズム、言語行為論、読者行為論、昔話形態学の4つに絞って、具体的な題材を引き合いに解説。
  • ロシア・フォルマリズム
    • 1920年前後にロシアで生まれた文学批評論。
    • 言語の構造(組合せによる連なり)のみを注目・分析。それ以外の“言葉の外のもの(作家の人生、当時の社会背景等)”には触れない。
    • 普段当たり前に捉えていたものと異なる見方に気づかせる“異化作用”が鍵概念の一つ(cf. デュシャンの泉)。感情移入的なものを排した即物的描写、繰り返し表現、句読点の非文法的利用など。
  • 言語行為論:
    • 言語哲学者のJ・L・オースティン(1911-1960)が提唱。
    • 人間が言葉を話すことによって、同時にどんなことを行っているかに関心を向ける。“事実確認的発言”と“行為遂行的発言”を識別し後者に注目。前者は、「この時計は私の遺産として弟に与えられるものです」。後者は、「私は、私の時計を私の弟に遺産として与える」。前者は真偽が問題になるが、後者は“社会的文脈の中での適否”が問題になる。これによりこれまで研究対象にならなかった日常言語が注目され、それを支えているものはなにか、が研究されるようになる。
    • オースティンの発話3分類。①発話行為、②発話内行為、③発話媒介行為。「私が彼に対し、『私は来ると約束をします。』と告げる場面」を想定すると、①は来るという予定を述べる行為自体、②は私が来ることを約束する行為(なにかを言いつつ行っている別の行為)、③この結果、彼に生じせしめる行為(彼が、よかった、と安心すれば、発話が結果的に彼の変化を媒介した)。発話媒介行為は多種多様なので、ドラマが生まれる。
    • サールは、事実を“生の事実”と“制度的事実”に区分。後者は、人間社会の制度が前提になって解釈されるもの( 「昨日の巨人阪神戦は引き分けに終わった」は、延長12回で引き分けになるという制度が前提で解釈される)。言語行為論は、この制度的事実を作り出している私たちの行為、とりわけ発言に注目する。場面に応じた一種の発話ルールを“言説規則”と呼び(eg. 結婚式のスピーチでは新郎新婦の話題をあげるべき)、この規則を研究対象とした言説研究が成立。
  • 読書行為論:
    • 独文学研究者のW・イーザー(1926-2007)が提唱。
    • 作者によって書かれた読むために提供されたものを“テクスト”と呼び、それに対し読者が入り込み自分の読み方、理解によって自分の側から改めて物語を再構築したものを“作品”と呼んだ。これが読者行為論の立場。
    • 読む行為を通じて、私たちはその世界に対する様々な期待(作中で何か新しい事柄に出会ったときに、それまでの解釈を改め、新たな展開への予想を立てていくこと)を積極的に生みだしている(“期待の地平”H・R・ヤウス)。その期待を生みだすものが作者は作品に関する情報。読者は物語に進行につれて、疑問や期待を自身の中に生みだし、変化させていく。
    • 文学作品にはなにからなにまで書かれているわけではなく、“空所”がある。読者は自身の想像力によって自分なりにそれを埋めていく。そうした読者を“内包された読者”と呼ぶ。この内包された読者に驚きを与える(期待を裏切る)のは一つの技法。
  • 昔話形態論:
    • 露昔話研究者のウラジミール・プロップ(1895-1970)が提唱。
    • 「魔法昔話」を分析し、その構造を機能的に整理。主人公に禁が課され、それが破られ、とか、敵対者が害をなし、主人公が呪具を得て闘う、とか、主人公が帰路につくが、追跡され、難題を課され、解決し、結婚し、即位する、とか。
    • それまでの民話・昔話研究は、もっぱら個々の民俗的特徴に帰せられてきたが、機能分析的、システム的なアプローチにより共通的な解釈が可能になる。
    • 児童文学研究者の瀬田貞二(1916-1979)は、幼い子どもたちが喜ぶお話しには、“行って帰る”という単純な構造パターンがあると考えた。竹取物語、浦島太郎、桃太郎、あるいは舞姫の太田豊太郎。
    • 物語を構造と捉え、文法としての機能を抽出することは、創作理論としての活用性を示す。実際、ゲームやアニメ制作における有効性が示されている( 大塚英二
  • 類書をみると、ニュークリティシズム、精神分析批評、脱構築批評、フェミニズム批評、クィア批評、ポストコロニアル批評、ニューヒストリズム批評 etc.
  • 無意識に行っていた自分のこれまでの読み方に自覚的になってみることの大切さ。どれが正しいというものでなく、様々な見方ができることにより、相対的に、より自由に読める。
  • 文字の文学から、メディアは多様に。よりダイレクトに五感、脳内神経、ホルモン物質に影響することも可能に。読者行為論でいうところの、自分の中で作られる作品、がもつ広がりを想像した。

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