モグラ談

40代のリベラルアーツ

【TV】NHKスペシャル「ラグビー日本代表 密着500日~快進撃の舞台裏~」

2019/10/20 08:00-08:57 NHK放映

【概要】

競技の枠を超えて注目と盛り上がりをみせたラグビーワールドカップ。準決勝進出をかけた南アフリカ戦に先立ち放映された。ルールも知らないにわか者だが、今回の日本代表から、リーダーシップ・組織論やスポーツの力を考えさせる多くのヒントが得られそうな気がして、番組を整理。

そもそもラグビーとは、19世紀前半にイギリスのボーディングスクールであるラグビー校で、フットボールをしていた選手が試合中にボールを抱えてゴールを目指したことに由来があるという。日本のラグビーは、開国後に外国人がプレーすることで始まったらしい。日本代表は1930年のカナダ遠征以来とのこと。ワールドカップ自体は1987年初回開催と歴史は浅い。日本は総競技人口世界6位(約30万人)であり、思ったより多い。(参照:Wikipedia

 

【ポイント】

  • かつて弱小チームといわれた日本代表がどのように進化を遂げたのか、500日間密着でベスト8までの舞台裏に迫る。
  • 前任のヘッドコーチ(以下、HC)は、手堅さ重視の管理型マネジメント。堅実だが、攻撃のバリエーションが限定的で相手に見極められると弱かった。4年前に現HCのジェイミー・ジョセフが就任。かつての所属チーム(オールブラックス)の戦術スタイルを踏襲し、“選手一人ひとりが瞬時に状況判断し、選手間の相互意志共有により変幻自在な戦術展開”を目指した(キックの多用、オフロードパスなど)。高度な技術が必要でリスクが高いが、「日本の選手はなにかにトライすることに消極的だが、ミスを恐れること自体がミス」との認識からジョセフはこの方針を追求。当初は、管理型になれたキャプテン(リーチマイケル)との軋轢も発生。当初は敗退が続くが、徐々に手ごたえをつかみはじめる。
  • その矢先、リーチが故障で離脱。表にでることに抵抗があった田村(スタンドオフ)がリーチ不在時にその穴を埋めるようにリーダーシップを発揮し始める。
  • 歴代最多の15名の海外出身選手。「日本人ではないが日本のために戦う。互いの価値を認め、容易ではないが団結を目指す」(ジョセフ談)に基づき、日常から様々な工夫で意図的にコミュニケーションを充実させる。
  • ジョセフは、もちろん指導が中心であるが、士気を高める工夫も凝らす。開幕前日、自身もルーツをもつニュージーランド先住民マオリ族の武器をモチーフにしたネックレスをサプライズで選手にプレゼントし、結束力強化を図ったり、アイルランド戦直前のミーティングで詩を披露(No one think we can win, no one knows how hard you’ve worked, you know you’re ready, trust each other)するなど。
  • そもそも8カ月間にわたりこれまでにない相当厳しい練習を積んだ。練習量だけではなく、練習後の選手主体のラップアップのミーティング、スクラムにおける1cm単位のポジション修正など、質的にも徹底したもの。

 

【雑感】

  • 何が強さにつながったのか。
    • 選手一人ひとりがフィールドで適切な判断・行動できることが高度な戦術につながる生命線と捉え、(管理型ではない)選手の主体性を中心としたチームとするという“リスク”をとったこと。
    • 以下によりこのリスクを乗り越えたこと。すなわち、①選手・コーチ/選手間の戦術方針の共有と、フィールドで確実に実践できるほどの練習の質量、②予算の集中投資(協会予算の半分以上を代表強化に充当)により、世界最高峰のスーパーリーグに参加し、競合クラブと日常的に協議する機会の獲得、③選手主導によるPDCAをまわす練習による、学習し成長するチームの実現、④差を生み出す個の力量を確保するための外国人材の積極的受け入れと調和を通じた結束力向上。
  • 選手中心の裁量型マネジメントはリベラルな点で共感を得やすく、管理型の前任との対比で美化されがちかもしれないが、あくまで必要な戦術のために必要なマネジメント手法を採用した、ということなのだろう。
  • むしろ、管理型の戦術・指導に慣れた選手たちをいかに変えられたのか。ここに今回のマネジメントの強みがあったのではないか。結果的には、多様な人材の結集が、タコツボであり続けることを許さない風土を生み出すことにつながったのかもしれない。
  • 選手は、戦術や練習から得られた教訓などをノートに整理している。勝利・上達という目標に向けて、日々、PDCAをまわし続ける習慣はスポーツを通じて得られる能力。ここを形式化できると、部活動の効果も競技力向上も、あるいは引退後の選手のセカンドキャリア形成にもつながるのではないか。
  • 今回得られた成果・教訓を、いかに次につなげられるか。各所で今後なされる成功要因分析を注視していきたい。

 

【もう1冊】

  • ティール組織フレデリック・ラルー,鈴木立哉訳,2018(初版),英治出版)⇨マッキンゼー出身の著者が、多くの事例分析に基づき組織を発達段階別に整理。これによると多国籍企業は予測と統制の達成型(オレンジ)組織。次の発展段階は、多様性・平等・文化を重視する多元型(グリーン)、最終型は自主経営・全体性・存在目的を重視する進化型(ティール)組織とのこと。
  • 新版リーダーシップからフォロワーシップへ(中竹竜二,2018,CCCメディアハウス)⇨長年、フォロワーシップ(誰もがリーダーと同じ意識を持ち、リーダーと同様に主体性を持って行動)の重要性を発信し続ける著者の新版。元早大ラグビー部主将、同部監督が企業の人材マネジメントについてわかりやすく説く。
  • 経営学習論中原淳,2012(初版),東京大学出版会)⇨人材育成研究の専門家である著者が人材育成を科学する。人材の成長が生まれうる機会ごとに、最新の研究知見を紹介し、経営学習論という(日本において)新しい学問分野の確立を促す。