モグラ談

40代のリベラルアーツ

【本】性的人間(大江健三郎)

  • 積読から。1968年。
  • 前半の別荘での退廃的でなげやりな一夜。読みながら“限りなく透明に近いブルー”を想起。こちらは1976年の作品。ヒッピーが生まれたのは1960年代後半。そう考えると、この奔放感は時代的。
  • だけど、この前半部分、リアリズムが響いてこない。最後まで読み終えてはじめて主人公の理解に必要な時間だったことを知る。それとは別に、村民が生み出す恐怖の描写。背筋が凍る。
  • 破滅でしか救済されない詩人。好意を持ちつつ嘲弄する主人公Jと老人。会話に、同時代の学生運動を時代背景として感じる。
  • ラストでの主人公Jの衝動と選択。これしかなかった。どこかの時点から、Jはこの最期を迎えるために生きてきたようにすら思える。“厳粛な綱渡り”が打ち込んだ楔が決壊させた。

“政治的人間は他者と硬く冷たく対立し抵抗し、他者を撃ちたおすか、あるいは他者に他者であることをみずから放棄させる。性的人間はいかなる他者とも対立せず抗争しない。かれは他者と硬く冷たい関係をもたぬばかりか、かれにとって本来、他者は存在しない。かれ自身、他のいかなる存在にとっても他者でありえない。”“政治的に牝になった国の青年は、性的な人間として滑稽に、悲劇的に生きるしかない、政治的人間は他者と対立し、抗争し続けるだけだ”

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