モグラ談

40代のリベラルアーツ

【美】日本の風景を描く-歌川広重から田淵俊夫まで-

  • 日本の自然や風景を題材にした江戸から現代までの作品を展示。
  • 平安以来、日本の風景画は写実よりも心象やイメージをのせてきた。江戸後期に街道が整備され旅への意識が広がる。宿場を描いた広重の浮世絵風景画の人気の背景。明治以降、西洋技法を学んだ画家による写実性との融合。戦後の都市・建築への関心、抽象的表現、心象の表現など、主題も表現も多様化。
  • 川合玉堂の「春風春水」でお出迎え。玉堂がモチーフとして好んだ渡り船。画面を大きく占める岩々は迫りくる自然の力をみせつつもどこか優しい。
  • 川端玉章の「海の幸図」。海辺の漁村、自然の恵みとともに生活する幸せが伝わってくる。
  • 菱田春草の「釣帰」。朦朧体が湿潤な空気と柔らかな光線を表す。幻想的でもあり、生活的でもある。
  • 石田武の「四季奥入瀬」。本展覧会の目玉の連作全4点。まず「春渓」。“雪融けの水を集めて唄いだした水の流れ”を表現。清らか極まる流紋の美しさ。夏は「瑠璃」。カワセミのこと。翡翠ともいう。カワセミが静けさを際立たせる。ミズナラの巨木の力強さ。一方でたおやかに佇む水面。秋は「秋韻」。冬の訪れを見据えつつこれまでの日々を回顧するような黄葉樹。冷たさを増す渓流と、四季で変転する樹木の生命との対比を感じる。冬は「幻冬」。春に備え内にこもった樹々。じっと、しかし落ち着いて冬を受け入れる。黒味を増した川面は、水中の異世界を想像させる。
  • 玉堂の「早乙女」。田植えする農婦。労働が人と自然をつなげ美を生み出す。ここでの労働はlaborではなく生きることそのもの。農が育んできた日本の労働観の源泉を感じる。
  • 人の生活を超えた世界で生起する四季。そこに美と糧とやすらぎを求め交わる人間。自然は厳としている。
  • 千住博の「街・校舎・空」。26歳のときの作品。イメージと異なる。人のいない街と校舎。構成的。
  • 季節ごとの空気、香り、湿度、風を感じながら拝観。日本の風景画の美しさの源に変遷やうつろいをみる。様々な表現を堪能。周回し「四季奥入瀬」をもう一度あじわう。山種さんの企画はいつも満足感が高い。ここの絵葉書を送っていた祖母を思い出しながら帰路。

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